風シリーズ

□姿は変わっても中身は変わらず
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「…うっ……ぐすっ」

「………」


困ったことになった。非常に困ったことになった。俺の部屋で、俺の膝の上に突っ伏してしくしくと泣き続けるこの赤ん坊をどうしたものか、と俺は頭を抱えていた。


「あの…、風さん」

「うぅっ…ひっく…」

「……」

「50階程の高さのビルの屋上から飛び降りて死にたいです…」

「物騒なこと言わないで下さいよ!!」


俺の膝の上に突っ伏して泣いている赤ん坊は風さんだ。どうして風さんが赤ん坊になったのか、どうして泣いているのか解らない俺は、それでもこの人をどうにかしてあげたいと思っていた。いやだってほら、もしかしたら将来義理の兄になる人かもしれないし、アルコバレーノに恩を売っておく良い機会だと思うんだよね。


「まず、どうして赤ん坊なんかになったんです?あと、泣いてる理由も」

「……実は、」


風さんが泣きながらこんなことになった経緯を話し始めた。事の起こりは昨日のアルコバレーノ定例会議。その会議にてヴェルデが新薬を開発した、と喜々としながら言ったのがそもそもの発端らしい。そしてその新薬の実験体としてアルコバレーノの誰か一人にその怪しげな薬を飲んで欲しい、と言い出した。
アルコバレーノ達の視線は無言で風さんに向けられ、嫌と言う前にリボーンとコロネロに押さえつけられ、無理矢理薬を飲まされた。薬を飲まされた後も特になにもなかったが、今朝起きたら視界が異様に低いことに気付き、慌てて鏡を見てみたら…


「赤ん坊になってた、と…」

「はい、…っ」


そして風さんの泣く理由を聞いて、俺は風さんを部屋の窓から投げ捨ててやりたくなった。


「こんな赤ん坊の姿では刹那さんに色々出来ないですし…最悪隠し子だと思われて嫌われてしまうかもしれません…」

「うん。なんだろう。風さんが姉さんへの欲求のみで生きているのがよく解った」

「なんとかして下さい!!」


目に涙を溜めながら小さな手で俺の首を締めてくる風さん。赤ん坊になってもアルコバレーノ、力は前と変わらない。アルコバレーノに恩を売っておこうなんて考えた俺がバカだった。だからとりあえずその手を離して欲しい。このままじゃ解決策を見出す前に俺が天に召される方のが早い。


「解った、解りましたからっ…首を締めないで下さい!!」

『ただいま〜』

「「!?」」


そんな中、風さんが今一番会いたくないであろう我が姉が帰還。
汗だくになって部屋の中をうろうろとして慌てる風さん。姉さんが帰って来てしまったのならいくら隠れても無駄だと俺は思う。


『ツナ〜。風さん来なかっ…なんだ風さん来てたの?』

「「え?」」


がちゃり、と部屋の扉が開き、我が姉の登場。姉さんはうろうろとしていた赤ん坊を見るなり風さん、と言い放った。


「姉さん、どうしてこの赤ん坊が風さんだって解ったの?」

『え?どっからどう見ても風さんじゃん。三つ編みも赤いチャイナ服も雰囲気も風さんだし』


姉さんすげぇっ!!一目で解っちゃうの!?この人やっぱりただ者じゃないよ。姉さんは赤ん坊の風さんを抱き上げるとぎゅっと抱き締めて頬擦りを始めた。


『可愛い〜!!さすが風さん、赤ちゃんの時からいい男だね!!』


赤ん坊になった経緯とか気にならないのかこの人は。そう思って尋ねてみれば、どうせヴェルデの怪しい薬でも飲まされたんでしょ、とあっさりと正解を答えてくれた。


『いつ元に戻るの?』

「さぁ…しかしそんな簡単にこの姿を受け入れてもらえるとは思わなかったのですが…」

『どんな姿でも風さんは風さんだもん。元に戻るまで私が面倒見てあげるね』

「それはつまり…どういう意味です?」

『お風呂入れたり一緒に寝たり』

「刹那さんが一緒に風呂に入って私の髪やら体やら洗ってくれるのですか?」

『うん』

「刹那さんと同じ布団で寝るんですか?」

『うん。だめ?』

「よろしくお願いします」










姿は変わっても中身は変わらず
(姉さんと新婚気分に浸れると思っているんだろうけど、今の姉さんはどう見ても母親だ)



「今の風さん、姉さんの子供みたいだね」

『父親は風さん?』

「近いうちに私によく似た男の子を産ませてあげますね」

『も〜、風さんのえっち』



結局、風さんが赤ん坊になってもこの二人はバカップルだと俺は認識した。





(こうして刹那さんに抱かれるのも悪くないですね)
(いつも抱き締めてもらってるから新鮮な感じ)
(解ったから自分の部屋へ行けよ姉さん)
 

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