風シリーズ

□冷たい指先
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『なに…』


目の前の状況に頭がついていかない。なに、これは。私の目の前で一体なにが起きてるっていうの?ここ、並盛病院に来る前に、骸が最後の一口のチョコレートを食べた、とか、隼人が持ってきたお土産の八ツ橋が美味しかった、とか、色々あった日々変わらない出来事は、息を切らせて沢田家に飛び込んで来たアリアさんから聞いた話でどうでもよくなっていた。今、私の目の前では風さんが寝ている。なんで寝てるの?それも病院のベッドで。なんでそんなに沢山点滴の管で繋がれてるの?なんで呼んでも起きないの?ねぇ、なんで?意味わかんないよ。


『なんで…?』


昨日会った時、元気だったよね?いつもみたいに笑ってたよね?物真似してたの見られてすっごい恥ずかしかったの、忘れてないよ?


「姉さ、」

『やっぱり殴ってでも止めるべきだったんだ』


重い無言の空気に耐え切れなくなったツナの言葉を遮って私は言った。私の不安や嫌な予感はよく当たる。それこそ、その辺の占い師なんかよりもよく当たる。風さんが仕事だ、と言った時に感じた嫌な予感が、こんな最悪なことだったなんて…


『ちゃんと帰って来るって言ったじゃん』

「姉さん、」

『会いに来るって言ってたじゃん』

「姉さんってば」

『なに怪我してんの?なんで寝てんの?なに死にそうになってんの!?ねぇ風さん…起きなさいよ!!』

「姉さん!!」

「お姉様!!」


握った拳を振り上げて、風さんを殴ろうとする私の腕にツナが、私の体を背後から隼人が押さえて止める。


『放せバカツナ!!』

「ダメだ!!風さん殴るつもりだろ!?」

『放しなさい隼人!!』

「幾らお姉様のご命令と言えど放せません!!」

「風さん怪我してんだぞ!?殴ってどうするんだよ!!」

『殴らなきゃ起きない!!』

「起きる!!絶対起きる!!」


起きる?本当にそう思ってるの?だって顔色悪いよ、今にも死にそうなんだよ。なにを根拠に起きるなんて言ってるの?


『起きる訳ない…』

「起きる…風さんは絶対死なない」

『そんな、』

「姉さんが信じなくて誰が信じるんだよ!!」

『…っ』


姉さんが信じないで誰が信じるんだよ―――


そうだ、私が信じないでどうするんだ。


「10代目の言う通りです。風の奴は絶対に起きます」

『隼人…』

「お姉様を置いて死にやがったら俺がボムを撃ち込んでやりますよ」

「縁起でもないこと言うな!!」

「風なら死んでもボムを撃ち込んだら生き返りそうな気がするんスよ」

「ま、まぁ…それは有り得そうな気がする…」


風さんは起きる、絶対に。ツナと隼人の不謹慎な会話を聞いてそんな気がしてきた。でも思い出す。10年バズーカで10年後の世界へ行った時のこと。未来に風さんはいなかった。いないのはもしかして…このまま起きなかった、から…?


『嫌だ…』


このまま起きないなんて絶対に嫌だ。風さんのいない未来へ行った時に決めたんだ。私が風さんを守るんだ、って。そう決めたのに守れなかった。嫌な予感はよく当たるって私が一番知ってるのにどうして止めなかったんだろう。自分に問い掛けても答えは簡単に返ってくる。いつか、私のわがままですれ違ったあの時みたいになりたくなかったから。守る、だなんて決めておきながら、私は自分の気持ちを優先したんだ。死んだらどうにもならない。生きていればすれ違っても何度でもやり直せるのに。


『風さん、』


貴方が死ぬのは嫌です。前に言ったでしょう?この先、なにがあっても好きになるのは貴方だけだって。
何度呼んでも返事をしない彼の手を握ったら、どうしようもなく涙が流れてきた。











冷たい指先
(なんでこんなに冷たいの?)




繋いでいた貴方の大きな手はいつも温かかった。
もっと、ずっと一緒にいたいの。だから…


『死なないで…』


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