風シリーズ

□叶うならばもう一度
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「おい、起きやがれ!!」

「……」


虚ろとした意識の中からよく知った男の声が聞こえてくる。この声は…リボーン、ですね。やたらと私の頬をぺちぺちと叩くのはやめて頂きたいのですが。地味に痛い、と言いたい所だが、不思議と痛みも感じなければ体も反応しない。感じるのは背中に伝わるコンクリートの冷たい感触と、掌に伝わる生温い液体の感触、それと錆び付いた匂い。霞む視界に入るのは赤黒い血の色。あぁ、そう言えばほんの僅かな隙に敵に撃たれたんでしたっけ。と言うことは、この血は私の血ですか。いい具合の出血ですね、眠るように死ねそうです。


「リボーン、」


敵は?、そう尋ねたら思った通りの返答。そうですか、始末したんですか。さすが最強のヒットマンです。では、任務は成功と言う訳ですね。


「バカ言ってんじゃねぇ。ヘマしやがって」

「はは…すみません…」

「死ぬ気で起きてろ。俺が刹那に殺される」

「………」


刹那さん?あー…任務が終わったと言うことはこれで帰れると言うことですね。早く帰ろう、きっと心配している。早く帰って不安そうな顔をしていた彼女を抱き締めて安心させてあげなければ。



「…このまま帰ったら…刹那さんに怒られますかね…」

「すげぇ怒るだろうな」


彼女の怒った顔を想像して口許が緩む。怒られるのもたまにはいいかもしれない。


「それにすげぇ泣くぞ」

「それは…嫌ですね…」


怒られるのは全く構わない。けれど泣かれるのは嫌だ。つまらない嫉妬や私の勝手な思いで何度も泣かせたことがありましたから。


「だったら生きろ。今ここで死んだら他の奴に刹那を任せることになるんだぞ」

「それは…もっと嫌です…」

「なら目を開けろ!!もうすぐボンゴレの医療班が来る、寝るんじゃねぇこのヘタレ!!」


寝る?寝る訳ないでしょう?今寝たら二度と目が覚めないことくらい私にも解っています。たかが敵に撃たれたくらいで死んでたまるか。彼女を他の男に渡すなんて冗談じゃない。なのに何故でしょうね、私の気持ちとは反対に動かそうと思っても体は全く動いてくれないのは。私の隣で携帯に向かって怒鳴るリボーンの声が遠くなる。それに寒い。体温が下がるのが自分でも解る。


「リボーン…」

「なんだ!!」

「血…止めてくれませんか…」

「うるせぇ!!今やってるだろーが!!」

「寒い、ですね…」

「だったら刹那のエロい所でも考えてろ!!お前の取り柄だろ!!」


本当に無茶なことを言う男だ。こんな場面で私を欲に塗れさせないで頂きたい。彼女のことを考え出したらきりがない。


「…刹那さんと初めて会った時…雲雀恭弥に間違えられました…」


あの時見た笑った顔が今も忘れられない。あの時出会わなかったら、彼女の側にはいられなかった。彼女のことを考える時、いつも一番最初に浮かぶのは笑った顔。怒った顔も、困った顔も、泣いた顔もどれも好きだ。でも私は、彼女の笑った顔がなによりも好きだ。


「なら死ぬな」

「………」


リボーンが私を担いだ。人の足音と、がらがらと滑車の音が聞こえてくる。医療班が到着したようだ。もう刹那さんも知っているんだろう、私が怪我をしたこと。きっと凄い怒られる。でもそれでも構わない。彼女が泣かずに済むなら気が済むまで怒られてやる。


「…目が覚めたら…まず刹那さんからお説教ですね…」

「だな…おい、風」


目を開けろ、と私を揺さぶりながらリボーンが怒鳴る。すみません、声を出すのも、目を開けているのも限界みたいです。視界が真っ黒になる瞬間、浮かんだのは大好きな彼女の笑顔。薄れていく意識の中で彼女が笑いながら私を呼んだ。


いつもと同じように
風さん、と。








叶うならばもう一度
(貴女の笑った顔が見たい)




こんな所で死ねない。彼女を、彼女の笑顔を守る為に、私は死ぬ訳にはいかない。
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