恋人

□かわいいねって、
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風くんを職員室へと案内する為に校舎の中へ入ると、残っている生徒達は驚いた顔をして風を見る。気持ちは解らなくはない。だって校内では知らない人はいないくらい、風くんは恭弥とよく似ているんだから。風くんは生徒達の様子に戸惑っているようで居心地が悪そうだ。


「刹那さん、」


隣を歩く風くんが、すれ違う生徒達を振り返りながら私を呼んだ。


「さっきからすれ違う生徒達に一歩引かれているような気がするのですが…」

『あー…うん、まぁ…似てるからね』

「似てる?なににですか?」

『この学校で一番有名で、一番怖い人に』

「私…が、ですか?」


似てると言うよりは瓜二つ。生き別れた双子の兄弟だと言ったら、きっと誰もが信じると思う。でもね、性格は絶対に風くんの方がいいと思うんだ。恭弥だって性格が悪い訳じゃない。なんだかんだ恨みを買ったり言われたりしているけれど隠れファンは多い。恐怖の塊みたいなもんだし、恭弥の誘いを断ったりしたら後が怖いから女の子達も言いなりな部分もある。まさに独裁政治。でも、女の子達も恭弥に憧れているから喜んでついていく。それが恭弥の女癖の悪さに拍車をかけているんだけど…


『………』

「どうかしましたか?」


凄く怖い顔をしていますけど、と風くんが言う。失礼ね、せめて怒った顔と言いなさいよ。お世辞でも怒ってる顔も可愛いね、くらい言えな「でも、怒った顔も可愛いんですね」

『っ…』


なに?なんなのこの人。至って普通に、さらりと笑顔で恭弥にも言われたことのない台詞を吐くなんて私をどうするつもり!?確信犯?それともただの天然?


「刹那さんは面白いですね」

『人を芸人かなにかのように言わないでくれる?』

「そうではなくて…ころころと表情が変わるので見ていて飽きないです」


そんなに百面相してる?確かに顔に出るって言われるけど、会って一時間も経っていない人にまで言われるなんて…


「私は怒った顔よりは笑ってる顔の方が好きです」

『風くんの好きな表情とか聞いてないしね』

「ちょっと笑ってみてくれませんか?」

『なんで?』

「惚れてしまうかもしれないので」

『………』


風くんって、もしかしておバカさん?出来たらあまり関わりたくないとか思っちゃったんだけど。ほらほら早く、と私の頬を引っ張る風くん。


『とりあえず殴ってもいい?』

「優しく、なら…」

『え、なんで顔を赤くするの?気持ち悪いんだけど。Mなの?』

「どちらかと言えばSですかね」


私、人を見る目がないかも。礼儀正しい紳士だと思ったんだけど、どうやら私の間違いのようだ。


『風くん。とりあえずこの廊下を真っ直ぐ行くと職員室だから。あとは一人で行けるよね?それじゃ』

「待って下さい。右も左も解らない留学生を放置して帰ろうとするのはやめて下さい」

『風くんなら大丈夫。私、信じてるから』

「意味が解りませんよ」

『いいから腕を放してーッ!!』

「い・や、です」


帰るのを阻まれて騒ぐ私。仕方ないでしょ、関わりたくないと思っちゃったんだから。廊下のど真ん中で騒いでいたら、刹那チャンなにやってんの?、と、よく聞いたことのある声がしたので正面を見る。


『あ、白蘭!丁度いい所に』


神は私を見捨ててはいなかった。偶然にも同じクラスの白蘭がにこにことしながら現れたので、私は白蘭に風くんを押し付けて逃走を図ることにした。


『彼、うちのクラスに来る留学生の風くん。職員室まで連れてってあげてよ』

「嫌だよさっき職員室行って来たばっかなのに。てか留学生?恭チャンじゃなくて?」

「私だって男に案内されるなんて嫌ですよ。誰ですかキョウちゃんって」

「うわ今ムカッとしたよ僕。恭チャンは刹那チャンの『似てるけど別人!』」


私がそう言うと白蘭は失礼なくらいまじまじと風くんを見る。そしてにやにやと笑いながら言った。




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