マフィアと忍者と
□赤いおしゃぶり
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「冗談ですよ」
『ですよね』
「でも即答でしたね。もう少し考える間があっても良いのではないでしょうか」
そんな間はいらないよ。身の危険を感じる発言には即答でお断りしなければ何があるか解らない。まぁ風は恭弥と違って紳士だろうと思う。何か腹黒いって言うかたまに棘のある言葉を吐くのは頂けないけど。私は風を膝の上に乗せて抱っこする。
『あーでもたまに抱っこくらいならしてもいいかも…』
「私も刹那にならこうして抱かれるのも悪くないと思います」
何やら少しだけ頬を染めて照れた様に笑いながら言う風。くそ…コイツ天然のタラシだな……これさぁ、本来あるべき姿の風だったらヤバい。惚れてたかも解らないよマジで。
「そろそろ帰りましょうか」
『えー…もうちょっと抱っこしてたい』
「女性の一人歩きは危険な時間になりますよ」
この子いちいちきゅんとくる言葉を言うのは何で?やっぱり天然のタラシ…いやいや紳士ですよ紳士。
『あのさ、』
「はい」
『私さ、風が元の姿だったら好きになってたかも…』
恥ずかしいけど言ってみたら風は苦笑い。
「私も刹那みたいな可愛らしい女性に好いてもらえたら大変嬉しいですけど、貴女にはもう想う相手がいるでしょう?」
『………は?』
ごめん、意味が解らない。私は自分の気持ちには正直に生きているつもりだから好きな人出来たらすぐに自覚するんだけど…
「恋と呼ぶにはまだ早い、雪が溶けて芽吹いたばかりの植物の様なものですよ」
『それって気付いてないだけって事?』
「そういう事です。ですが気付かないまま私を好きになって頂いても構いませんよ?」
子供の癖に流し目してきやがった!!可愛いじゃないかよ、どうしてくれよう本当に。何か風の可愛さに一人悶えてるうちに親子連れで賑わっていた公園はいつの間にか私と風だけになっていた。そして私は脇に置かれた袋を見て思い出す。
『ヤバい、早く帰って夕飯の用意しないと…』
「では私もこれで…」
そう一言だけ言ってくるりと背を向けた風を私は呼び止める。
『風、また会えるかな?』
「えぇ、近いうちに」
そう言うと瞬身の術でも使ったのかと思う程の速さで風は消えた。
この世界に来て一ヶ月、結構友達が出来た気がする。
〓午後6時〓
「刹那…」
『ん?あ、おかえり恭弥』
酢豚を作っている最中に帰ってきたらしい恭弥が物凄い不機嫌な顔で声をかけてきた。不審に思って聞いてみたら何ともすみませんな内容。
「何か僕が黒髪の可愛いオンナの子と結婚してて僕にそっくりな息子までいるって噂が町中で流れてるんだけど…」
『……へ、へぇ…それは…困った、ね…』
「刹那、言っておくけど僕結婚なんてしてないし子供もいないからね?結婚するなら刹那って決めてるし子供も刹那に産ませるつもりだから。一体何処からそんな噂が出たのか…その噂流した奴、絶対咬み殺す」
ごめん恭弥。それ原因は私と風だ。なんて言えるはずもなくただ笑うしか出来なかった。とりあえず私のせいで不機嫌な恭弥の機嫌を取る事にしよう。
『き、恭弥。それよりお風呂入ってくれば?あ、背中流してあげようか?酢豚にピーマン入れたけど残していいからね?今日は一緒に寝ようね!!』
「なに…どうしちゃったの?」
『たまにはいいかなって』
「何か凄い怖いんだけど…」
今日だけは恭弥のセクハラ行動、発言は大目に見ようと思う。何か本当ごめんなさい恭弥くん。そんな意味を込めてにっこりと笑ってみる。
「だからその笑顔が怖いんだって」
浮気が奥さんにバレた時って怒られるより機嫌良く笑ってる方が怖いって言うじゃん僕今そんな感じなんだけど、と言う恭弥。
『怒ってないから。恭弥は私の旦那じゃないでしょ』
「え?じゃあ彼氏?」
『……………』
「なに照れてんの?何か新鮮な反応がまた怖いんだけど」
何だか急に恥ずかしくなってしまったそんなある日の夜。私はまだ風の言っていた事には気付けないでいた。
(これ、風夢じゃん…)
2010.2.28加筆修正