マフィアと忍者と
□赤いおしゃぶり
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恭弥が学校へ行っている時間帯、私は掃除や洗濯を済ませて夕飯の買い出しに行く。日課と言うか私の仕事。恭弥と暮らし始めて一ヶ月が過ぎた。それで解った事、とにかく恭弥は家事が一切出来ないダメな男だった。服の畳み方所か自分の服が何処に閉まってあるのかも知らない典型的なダメ男。今までどうやって家事をしてきたのか聞いてみたら、ずっと風紀委員の人達にやらせていた様だ。その上文句も多い。そんなんじゃ嫁に来てくれる娘いないよ本当。
『玉葱にピーマンに人参、あとは…』
籠の中に入ったものを確認して足りないものを手に取る。恭弥は毎日食べたいメニューを言ってくれるので考える手間が省けて楽。ちなみに今日は酢豚を所望。パイナップルとピーマンは抜きでね、と言っていたけど冗談じゃない。ピーマンは入れます。恭弥はピーマンが嫌いだ。食べなくてもいいよ、無理矢理口に詰め込んでやるから。そう考えながら青果コーナーを通り過ぎようとしたら何だかいい匂い。匂いに釣られて思わず立ち止まり、ちらり、と横目で見れば真っ赤な苺。思わず伸びる右手を左手で制す。
『ぐ…待て刹那、ここは我慢だッ…誘惑に乗ってはダメだッ…!!』
傍から見て私今かなり怪しいオンナになってる。でも、でもね、私の右手が言う事を聞かないんだ!!右手が苺を取りたいと悲鳴を上げているんだ!!
『甘い誘惑には罠があるってアカデミー時代にイルカ先生が言ってただろッ…』
「お嬢さん」
『これは敵のトラップだ、手を出したらダメだ!!』
「お嬢さん」
『私はうちは刹那だ…こんな誘惑に負けてたまるかッ!!』
「お嬢さん」
『Σぎゃあッ!!!なにッ!?何なの!?』
左足の膝を何かに叩かれ思わずびくりとして周りを見回す。でも誰もいない。おかしいな、何かに叩かれたと思ったのに…と首を傾げながら苺との戦いを続行しようとした時、
「お嬢さん、下ですよ」
と、再び膝を叩かれる感触とよく聞き覚えのある声が私にそう言った。下を見たらこれまたよく知ってる顔が私を見上げていた。
『恭弥…じゃないな。あいつは基本的に敬語が使えないから。……て事はこの恭弥によく似た子供は誰?隠し子?恭弥の隠し子か!?あの野郎童貞じゃなかったのか!?』
「どんな思考ですか。年頃のオンナの子がそんな言葉を使うんじゃありません」
何か怒られた!!子供に怒られた!!確かに教育上よろしくない発言はしたけれど、そんな言葉って意味を解ってるお前が怖いよお姉さんは。
『あのさ、』
「はい」
『迷子?』
とりあえず目線を合わせて座ってみたけど、どう見ても迷子でしょこの子。何かチャイナっぽい格好してて可愛いんだけど。ぷにぷにしたほっぺが可愛いんだけど。恭弥にもこれくらい可愛げがあったら私ヤバいかもしれない。変態に身を任せる事になる。と、子供を見ていて私は気付いた。
『…………』
この子迷子なんかじゃないな、恐らく自分の意志でこのスーパーに来て私に話し掛けてきた。だってこの子、おしゃぶり下げてる。赤いおしゃぶり。これ見た事ある。リボーンと同じおしゃぶりだ。
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