星のコトノハ
□終わり、そして始まり
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〜水星の場合〜
「…今までありがと。」
水星の次期守護者であるリソ=クコラはうつむきながら小さく告げる。
向かい合って立つ、守護者リースとの別れを惜しみながら。
今まで『寂しさ』なんて感じたことがなかった。
別れが避けられないのは重々承知しているが、あまりにも大きい気持ちに戸惑う。
尊敬、敬愛、感謝…
言葉に表せられない感情が渦巻いて止まらない。
もっと側にいたいのに、いることができない。
リソは初めて寂しさを知った。
「……はい。あなたは、始めとは比べ物にならないほど成長しましたね。」
優しく優しく微笑み、リソの心の内を理解しているように守護者ルースは告げた。
二人の間には温かい空気が流れる。
百年という時の間に生まれた絆は浅くはない。
「っ、…貴方が、僕を成長させたんですよ…。…始めとは比べ物にならないほどに?」
リソは涙を溜めた目をそらしながら、ルースとの距離を狭め、ルースの袖をつかんだ。
ルースは長い黒髪は揺らし、リソを抱き締めた。
「はは、…始めは本当に無口で、何にも興味がなさそうで、どうしようかと思いましたよ。」
「…返す言葉もありません。」
リソはルースに抱き締められたまま背中に手を回し、呟く。
ここに来たばかりの頃は何もかもがどうでもよくて、多くの事が投げやりだった。
あまりの情けなさに、涙がにじむ。
「他の守護者たちとも中々打ち解けませんでしたしね。話しかけても『はい』や『別に』ばかりで、笑わなくて。」
「……、」
「…だけど、仕事だけは最初から真面目で。滅多に話しかけてくれないくせに、水星のこととなると自分から質問して。…慣れるまでは寝る間を惜しんで勉強して、陰で努力をしていたのを知っていますよ。」
「……っ…!」
涙はもう留まらず、流れ続ける。まるで尽き果てることを知らないように。
「だから私はあなたを」
ルースはリソの頭を撫でながら言葉を紡ぐ。
「あなたを信頼しています。今までも、そしてこれからも。」
ルースはリソを抱き締めながら最期の言葉を紡いだ。
「…よくぞここまで成長しました。
心から嬉しく思い、安心して水星を任せることができます。
これから、水星をよろしくお願いします。」
諭すように告げられる言葉は、1つ1つ重みをもった。
「…っ、…はい……。」
リソは顔を押し付けながら、答えた。
腕に力を込めて。服がシワになることなんて気にしないで、なんとか声を絞り出した。
それ以外は言えなかった。
今まで認めてくれる人なんていなかったから。
認めてほしいともそんなに思わなかったから。
認めてくれることが、任されることが、こんなに温かいものだとは思わなかった。
そしてルースはそっとリソを放し、優しい笑顔のまま、闇の中へと身を委ねた。
「ありがとう」
去っていくルースの口はそう言っているようだった。
「ルース様ーー…!!」
…ルースが去り、リソは1人放心し、暫くして、
ルースに、自分に、そして星に誓った。
「守護者ルース、今までのお務め、お疲れ様でした。引き継いで、私、リソ=クコラが以後100年間、水星を守ることを誓います。」
その言葉は星のみが聞く、決意を持った強い響きとなった。
ここに、新水星守護者が誕生した。