小説
□パラノイア(※)
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日興連に辿り着き、工場で働き始めて半年程が経った。
あっという間だったと思う。
ケイスケと一緒に暮らし、肩を寄せ合って生活する。
その生活が当たり前になってきたここ最近、ケイスケの様子がおかしいのに、アキラは一抹の不安を覚えていた。
様子がおかしいと言っても微細なものだ。
恐らく四六時中一緒にいるアキラでなければ気付けない程の、些細な変化。
例えば、アキラが先輩にからかわれているのをケイスケに見られると、今にも先輩を殺しそうな視線を向けてくる。
あくまで、先輩ではなく、アキラに。
次あったらそいつを殺す、と無言の圧力をかけられているようだ。
前は、からかわれても冗談だというのがケイスケにも分かっていたので、笑い飛ばせばそれで済んでいたのだ。
「アキラ、指大丈夫か?」
突然声をかけられ思考が中断されたと思った………と同時に左の人差し指に刺すような痛みを感じる。
「…………っ!」
指先はぱっくりと割れ、夥しい量の血液が流れている。
「ちょっと見せてみ」
今切ったのだろうか?
ただ呆然としていると、指が生暖かい感触に包まれる。
「………っ!先輩!」
「舐めときゃ治るだろ?じゃあ、気をつけろよ」
軽く肩を叩かれ、先輩は何事もなかったように歩いていく。