パラレル部屋

□マーメイドアキラ
1ページ/7ページ

早く、早く。
早く………あの人に会いたい。



どこまでも広がる青。
視界の上に輝く光を受けながら、アキラはある入り江を目指しひたすらに泳いでいた。

目的は一つ。
ある『人間』に会う為。
人魚内でもいつも一人でいる事の多いアキラが、唯一心を許す人間。

ケイスケ……………。

高鳴る胸を押さえつつ、あっという間に入り江に到着する。
こっそり水面から顔を出し、辺りをきょろきょろと見回す。
いつもならアキラより先に来ている筈の、ケイスケがいない。
内心拍子抜けしつつも、その辺にある岩場にもたれて待つ。

「あ、アキラ!」

「ケイスケ」

聞き慣れた声がする方に目を向ける。

「ごめん、遅くなった」

「いや、俺も今来た」

「本当?」

「ああ」

相変わらず謙虚な彼に思わず笑みが出る。

「実はさ、これをアキラにあげたくて遅くなったんだ」

「?」

ケイスケの掌には、小さな小包。

「アキラに似合うと思って」

小包から出したそれは、小さな髪飾り。
髪飾りの先に、淡く彩色された花がアクセントで付いている。

「………綺麗だ」

「ちょっとこっち来てアキラ。付けてあげるよ」

「………ん」

ケイスケのいる岩場へと近づく。
パチリ、という音がしてから髪に僅かな重みが加わる。

「やっぱり似合う」

ふわりと優しい笑みを向けられ、何となくむず痒い気分になる。

「あんまり……見るなよ」

「あ!ア、アキラ待って!」

顔を背けて岩場を離れようとすると、腕を掴まれ阻止される。

「…っ………!」

掴まれた部分からケイスケの熱が伝わる。
その火傷しそうな程の熱さに驚き、思わず腕を振りほどいてしまう。

「あ、ごめ………」

驚いた顔から、一気に後悔した顔に変化する。

そんな顔するな。

そう言いたくても、関心な声は喉を越えて出てこない。

「………今日は帰る」

代わりに出たのは、つっけんどんな言葉だけ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ