過去拍手文

□11月22日限定拍手文(※)
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「アキラ、見て見て!」

「?」

ケイスケが仕事から帰ってくるなり開口一番に、壷のような物を見せてきた。

「何だ?これ………」

古臭い外見は、どことなく年季を感じさせる。

「まさか……何かの商売に引っかかった訳じゃないだろうな…………?」

最初に気にかかった事はそれだった。
お人好しのケイスケだ。
押され続けたら買ってしまうだろう。
もしそうならば、早々に返品せねば。

ケイスケに厳しい視線を向ける。

「違う違う!工場長から貰ったんだよ」

そう言われ、肩の力を抜く。

「そうか、悪かった。……でも、何で壷なんだ?」

よく分からずに小首を傾げる。

「うん。実はね、糠(ぬか)が入ってるんだ」

「糠?」

「そう。漬け物を作ってみたいって言ったらお裾分けしてくれたんだ」

「へぇ………」

前に一度、工場長の家の糠漬けを食べた事がある。
初めての味に最初は戸惑ったが、あまり野菜を食さないアキラにしては珍しく箸が進んだ。

「この糠漬け、アキラ美味しそうに食べてたから家でも作りたいなって………。野菜も買ってきたから一緒に漬けよう」

「ああ」



早速壷を開けると、独特の匂いがほんのりしてくる。

「じゃあ、とりあえず胡瓜と大根を漬けよう」

ケイスケがある程度糠をかき混ぜてから、野菜を入れるスペースを作る。

「ここに入れればいいのか?」

「うん。あ、アキラも糠触ってみる?」

こくりと頷き、壷に手を差し入れる。
ケイスケが先程までかき混ぜてたからか、糠は思いのほか温かい。
粘土と泥の間のような柔らかさが気持ち良い。

「そうそう、上と下をよくかき混ぜて」





こんな作業をしているとまるで……………





そこまで考えてハッとする。
とんでもない事を考えてしまい一気に頬が熱くなるのを感じる。

「………へへ」

「………何だよ」

極力表情を見せないようにケイスケに反応する。

「何かさ、本当に夫婦みたいだなって」

その言葉を聞いた瞬間、頭を叩いていた。

「いって!?どうしたのアキラ………」

「うるさい!風呂入ってくる!」


言える訳ない。
たった一瞬でも同じ事を考えたなんて。


顔だけは見られたくなくて風呂場へと顔を向ける。
けれども真っ赤な耳だけはケイスケに見られていたようだ。
ふわりと笑む気配がする。

「俺も………一緒に入っていい?」

背後から聞こえる声に、まだドキドキしながらも、アキラはケイスケに早くしろ、とだけ言って風呂場へと消えて行った。




end
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