短編小説

□天と葉
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【第壱話 天 】



「ひっさしぶり!」
「久しぶり」
「葉!お前、遊ぶ約束全部拒否りやがって何してたんだよ?」
「あー、、、修行?」
「は?」


夏休みも2週間位過ぎた今日、 必要性を全く感じないけど、出ないと色々面倒な、登校日の日だった

朝から出会い頭に友人に文句を言われるはめになるなんて・・・

俺だって、遊びたかったってーの!

楽しみにしていた夏休み、誰が好き好んで遊びを蹴って修行になんか日々を費やすか!

遊びに行く事も出来ず、意味のわからない修行の日々を送る事になったのは、全てあの日のせいだった



あの日崖から落ちた俺は、目を覚ますと、じいちゃんの部屋で布団の中にいた


「葉!起きたか!?大丈夫か?!」
「……」
「葉?」
「……」
「お前さん、葉であっとるな?」
「え?何言ってんの?じいちゃん」

目覚めて少しボーっとしていると、じいちゃんが意味のわからない事を言ってきた

「てか、俺、生きてる……?」

結構な崖から落ちたはずなのに

「ああ!ちゃんと生きとるよ!すまなんだ!じいちゃんが変な事頼んだばっかりに」

綺麗な土下座で謝ってくるじいちゃんを、俺は慌てて止めた

「じいちゃん!止めてくれよ!俺の不注意だったんだから!まさかいきなり木から何か落ちてくるとは思わなくて、ビビっちゃった。アハハ」

我ながら恥ずかしいので、苦笑い混じりに話していると、じいちゃんが気まずそうに顔を俯かせる

「でもアレなんだったんだろうな?気のせいだと思うけど、何か喋ってた気がするんだけど・・・」
「・・・・・」
「あれ?そういえば、俺どうやって家まで帰ってきたの?じいちゃんって事はないから、父さん?だったら、後でスゲー怒られるよな…じいちゃん庇ってね?」

気まずそうな空気を変える為、明るく話題を変えようとしたのに、更にじいちゃんの空気は重くなっていった

「それなんじゃが……」
「な、何?」

口ごもるじいちゃんが珍しく、流石に俺にも緊張が走ったその時


「見てらんねー!そろそろハッキリ言えよ、源」
「え?」
「あ、コラ!」

どこからともなく聞こえてきた声に、俺は辺りを見回した

「そんなとこじゃねーよ。ここだここ」

自分の指が示す方向を見て俺はまた、その日寝込む事になった






「おい!葉!お前大丈夫か?」
「え?あ、ああ。悪い。何?」

会話中に、あの日の回想に浸っていた俺を、友人が思いきり揺さぶった

「お前大丈夫か?何かさ、妹から変な話も聞いたんだけど…」
「どんな?」
「お前が、独り言を言って商店街で一人で騒いでたってか、喧嘩してた。って」
「マジか・・・」
「他にも何人か言ってたぞ?やたら独り言いってるって。葉大丈夫か?って」
「そんな見られてたのか」


間違いなくそれは俺なのだが、決して一人で騒いだり、喧嘩なんて奇行をしていたわけではなく、ちゃんと相手がいたのだけど……

「一人じゃないんだけどなあ…」
「え?」
「何でもない」

話しても無駄と諦め、話題を切った


何だかんだと午前が終わり、下校時間になると、友人たちが集まってきた


「この後どうする?」
「飯行こうぜ!」
「いいね!」
「葉も行くだろ?」

ワイワイと盛り上がる周りに、どうしようか悩んでいると

「行けば?」

明らかに俺の口から、俺の意思とは違う言葉がこぼれた

「え?行かねーの?」
「最近付き合い悪いぞ?」
「あ!今のは違う違う!……行くよ」
「よっし!行こう行こう!」
「いつものとこで良いよな?」
「おう!」


皆で教室を出ようとしているところで、俺は皆に声を掛けた

「悪い。俺谷先に呼ばれてたんだ!ちょっと職員室寄ってから行くから、先行ってて」
「葉何したんだよ?俺もついて行こうか?」
「いや、大丈夫だよ!すぐ行くから」
「わかった」
「はやくなー」
「オッケイ!また後で」


皆が出ていって一人になった教室で、俺は愚痴た

「皆の前で出てくるなよ」
「葉がハッキリしないからだろ?」
「それは、悩むだろ?!行きたいけど、天いるし……それにこの間みたいな事になったらどうすんの?」
「また蹴散らせばいいだろ」
「皆の前では無理!」


今の俺を周りから見ると、明らかに一人で喋っているように見えるだろうけど、ちゃんと対話相手はいるのだ。

俺の中に・・・



あの日自分の指が示した場所は、自分自身で、何一つ理解出来ない俺に、じいちゃんと、俺の中にいるという、天と名乗る天狗が、話始めた―――
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