短編小説

□スリーピングトラベル
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間違いなく初めて会ったばかりのアリスが何故自分のフルネームを知っているのか不思議でたまらない。

「あなたの事なら知っているわ。
成瀬零・17歳・O型・数学が苦手・身体能力は高い」
「待った!!」

スラスラと単調に自分の事を言い当てていくアリスにそれ以上は言わなくていい。と言葉を遮った。

「…わかった。あんたが俺の事を知ってるって事は納得いかないけどわかった。とりあえず、中間の世界って何なわけ?俺は今寝てるのか?起きてるのか?」

納得はしていないけどアリスが自分の事を知ってる事は本当らしいとわかると質問を変えた。

「俺は今どうなってるんだ?」

何よりも自分が置かれている状況を把握しない事にはどうにもならない。
夢の中のはずなのにさっきから摘んでいる手の平からは確かに痛みがあるのだ。

「そうね。あなたは今寝ても起きてもいないわ。」
「は?」
「正確に言えば表の世界のあなたは眠っているけど裏の世界のあなたは起きている。そしてその二つの世界を繋ぐ場所それがここ中間の世界よ。」

意味がわからない。
なんだそれ。
表?裏?

「人は生まれる時に二つの世界から一つの世界を選んで生まれてくるの。選んだ世界が表の世界、選ばれなかった世界が裏の世界、裏の世界を一言で言えばパラレルワールドよ。」
「パラレル…ワールド…。」

聞いた事ある。
テレビやゲームでよく聞く言葉だ。

けれどそれは架空の物語であって現実に、しかも自分の身に起こるなんて想像もしていなかった。

「なんで俺が…?」
心で思っていた事が最後は言葉になって出ていた。

「ここはね、精霊達がよく来るの。魔力が高いから裏の世界の扉が開いてしまって。
けれど稀にいるの。潜在能力が高い人間が。あなたがそうよ。」

零の独り言のような呟きに淡々としていたアリスがほんの少しだけ表情を変えて答えていた事に零は気付かなかった。
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