神様の12の使い魔

□Shibaーシバー
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「早くしなさいよ」


強気な態度と口調で振り返ってきたのは、まだ12歳前後に見える女の子だ


「はいはい」


数日一緒に過ごした事によって、こういうやり取りにも慣れてきたので、軽くあしらう


「『はい』は1回って教わらなかったの?!」
「誰にだよ?」
「神様。お父さんなんでしょ?」
「父さんだけど、桜が思ってるのとは違うからな」
「どういう事?」
「んー・・・」


神の使い魔である自分達は、人間の親子との関係とは当然違うのだが、それを説明するのも面倒なので、少し考えた後、話を反らす事に決めた


「まあそれはどうでもよくて、はやくこれ持って帰るんだろ?」
「あ!そうだ!シバが急がないから!枯れちゃうでしょ!」


そう言うと、心は俺の手に握られた小さな野花の束を見た


「お母さんお花が好きだから、きっと喜んでくれるわ!だから、はやく帰るの!」
「はいはい」
「だから、『はい』は1回」
「わかったって」


これも、むしろ俺が持っている事で花が枯れにくくなるのだが、言わないでおく


そうして家路を急ぐ途中で桜の前に出、家の玄関扉を開け、中にいる桜の母親の有華に声をかける


「帰ったぞー」
「ちょっと!ちゃんとただいまって言いなさいよ!」
「そう言われてもな、俺の家じゃないし。そう思うなら自分で言えばいいだろ?」
「それは・・・」


俺の言葉が気に入らなかったらしい桜が文句を言ってくるが、言い返してやると、服の裾を強く握りうつ向いてしまった


「お帰りなさい」
「有華、これ」
「お花?」
「お前の為に桜と摘んできた」
「・・・そう」


差し出された花の小さな束を有華は受けとると、その花の束をしばらく見つめた後、思い出したようにこちらに視線を向けた


「あ!ごめんなさい!入って!」
「おじゃましまーす」
「・・・ただいま」


さっきまでの威勢はどこにいったのか、桜は小さな声で言った後、居心地悪そうに俺の後に続いて家へと入ったのだった









「どこで遊んでたの?」


先ほど渡した小さな花の束をそれに見合った小さめの花瓶に入れ、テーブルの上に飾り一息ついた後、俺と桜の向かい側の椅子に有華は腰を下ろし声を掛けてきた



「そこの土手の辺りだな」
「うん」
「桜がずっと命令してさ、アレとれコレとれって」
「ちょっ!!命令じゃないわ!あれは指示してたのよ!」



言い合いをしていると、複雑な笑顔でこちらを見ていた有華が一言だけ口を開いた


「楽しかったのなら良かった…」
「あっ…」



その言葉に桜は咄嗟に反応したが、それ以上何を言うでもなくうつ向いてしまった



「はぁ」



二人に聞こえないくらいの小さな溜め息をついた俺は、ゆっくりと天を仰いだのだった
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