短編小説

□くだらない話
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昨日は特に用事もなく、仕事先から真っ直ぐ帰宅し、いつものように寛いでいたら、インターホンがなり


″あぁ、そんな日かぁ・・・″


と、思いながら玄関を開けると、スーツ姿の男が立っていた



「どうも、こんばんは。吉川さん」


目の前に立つ警官は、笑顔で軽く会釈をしながら、挨拶をしてきた


「どうも。お久しぶりです。刑事さん」


見知った顔だけど、そこそこ久しぶりな再会に、俺も会釈をした


「あの事件から、明日で一年になりますが、おかわりないですか?」


柔らかな様子で伺ってきたその言葉は、裏を返せば、『まだ何も思い出さないのか?』と言っているだけで、俺はいつものように相変わらずな言葉を返した


「すいません。まだ何も思い出せないです。思い出せたら、真っ先にお知らせします」
「いえいえ、焦らせているつもりはないので、しっかりと思い出して下さい。また、伺いますね。突然失礼しました」


そうして、また相変わらずの言葉を残して刑事は帰って行った


何故警察が、仕事が終わった俺が部屋にいる事を把握したうえで、わざわざ家に訪れてきたのかというと、一年前にこの近くのビルに強盗が入ったのだ


その強盗は数人組らしく、大胆な手口だったにも関わらず、捕まっていないという

ただ一人幹部の一員だという男を除いては


そして俺は、その強盗団の唯一の目撃者らしい・・・


何せ記憶がないのだから、何とも言えない


何故記憶を無くしたかというと、人質として連れて行かれそうになった時、暴れたらしく、頭を殴られながらも車から飛び降りたのが原因じゃないか?という、俺が車から落ちる所を見た人の話だった


全くもって違和感しかないが、確かに走りさる車を見ていた記憶はあるので、あながち嘘じゃないのかも?と思っている


ただ、何より信用性に欠けるのが、車から落ちる俺を見たという人物が、唯一捕まっている、自称幹部の男だからだ



幹部が捕まっていて、何故未だに犯人が捕まらないのか、普通なら供述をしないからだと思うところだが、その男は驚くほど簡単に口を割っていた


嘘ばかりを



そうなると、警察だって問い詰めるのだが、そこで問題が起きた

その男にとって、それらは何一つ嘘ではないのだ


全て真実だと信じているらしく、警察が出した答えが、ただの捨て駒だったのだろう。という事だった


その為、やはり唯一の目撃者である、俺の記憶が早急に欲しいらしく、事ある毎に、ああやって様子を伺いに来るのだ


こっちだって早く犯人には捕まって欲しい

犯人が捕まってくれないと、俺だって身の危険があるわけで


そういった理由で、最初の内は警察も警戒してくれていたのだが、俺にばかり時間を費やしている暇もないらしく、自分の身は自分で守れと言わんばかりに警護はなくなったが、たまにさっきのように突然の訪問があるのだ



「あぁー、早く記憶が戻って自由になりたいー!!」





これが、昨日までの俺
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