短編小説

□天と葉
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山に囲まれた盆地にある町で生まれ育った俺、木佐葉(きさよう)は、高校2年の夏休み初日、とんでもない経験をする事になる



【第零話(前):はじまりの日(弐)】



思い返せば、その日は少しずつ、いつもと違っていた―――


「すまんな。葉」
「いいよ。あんま無理するなよ?じいちゃん」

布団に寝転びながら、申し訳なさそうに源じいちゃんが謝った

「俺、裏山入るのはじめてだ」
「……そうか。一本道だから迷う事はないと思うんじゃが、昨日の雨で足下悪くなってるから」
「大丈夫大丈夫!子供じゃないんだから!」


家の裏にある山には、小さな祠があるらしく、そこに毎週近所で評判の和菓子を、じいちゃんは供えに行っていたのだが、先週祠から帰ってくるなり腰を痛めてしまい、一週間経った今でも動けない状態なのだ。

家族が皆、『一回位お供えを持って行かなくても問題ないだろう?』と言うなか、じいちゃんいわく『そんな事をすれば、とんでもない事になる』らしい

そんなこんなで、両親は仕事で忙しいので、行く事は出来ないし、タイミング良く夏休みに入った俺に、じいちゃんの代役という白羽の矢があたったのだ


「じゃあ、サクッと行ってくるよ」
「待ちなさい!葉!」

軽い足取りで行こうとした俺を、じいちゃんが慌てて止めた

「あの御守りをちゃんと持ってるな?」
「ああ、持ってるよ」
「なら良い。気を付けて行っておいで」
「オッケイ!行ってきます」




「へぇ…本当に一本道なんだな」

はじめて入る裏山は、ちゃんと人が通る道が、そこそこある幅で一本通っていた

「事あるごとに、この御守りの事気にするけど何でだろ?」

出掛け際に、じいちゃんが言っていた御守りを見た

赤と白の地に、見たことがない模様が入っているその御守りは、気付けばいつの間にか持っていて、誰から貰った物かも覚えていなかった。

ただ、じいちゃんが言うには、悪い物ではないから、持っておくと良いらしく、とりあえず常に持ち歩いている


「おっ!本当にあった!あれだな」


気付けば、大きな木がポツポツと生え、見晴らしが良くなった事で、少し離れた場所にある祠に気付く事が出来た


「何か、こういう雰囲気好きだな……」

祠の周りは小さく拓けていて、周りの大きな木の葉の間から、木漏れ日が前日の雨粒をキラキラと光らせ、神秘的な雰囲気を出していた

「また今度来よう。今日はじいちゃんと約束したし、サッサと帰んないとな」


誰もいない森で普通に独り言を言いながら、急ぐ為に駆け出した



今思えばこれが良くなかったんだと思う



「―――――っ!」
「えっ!?」


突然、大きな木から何かが出てきて、何かを言ってきたのだが、あまりに驚いて俺は、飛び出してきたモノとは反対方向へ後ずさっていた


「――のは!!」

「あ……っ!」


飛び出してきたモノが叫んだ時には遅く、俺はぬかるみに嵌まって崖下へ滑り落ちていった


そうして俺、木佐葉は、楽しい夏休み初日に死んだ―――




はずだった―――




【天と葉】
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