*遙時

□■誓い事
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長らく続いた鬼との戦いに
終止符を打ち終えた春の京。
藤美しき姫の屋敷にて。



―――――誓い事



「今、何と言ったんだ?天真」

唐突に切り出された話題に
私はらしくも無く、耳を疑った。
その話題を振った張本人…、
天真は嫌そうに
もう一度、先の言葉を口にする。


「だから、別れたい」
「何故、急にそのような事を」

―――俺、明日あかね達と
元の世界に帰るっ!


「……、…それは、」

口を開こうとしない天真に
少なからず苛立ちと不安を込め、
先程まで広げていた扇を
わざとらしく音を立てて閉じた。


「私と君は、恋仲にあると
思っていたのだが……、
前日にそんな大切な話をされるとは
どういった仕打ちなのか…」

言えば彼は、きゅ…と
悲しそうに唇を噛んで俯いてしまう。


「話してみなさい、天真」
「…っ、て、ダメなんだ…俺…!」
「天真?」

どうしたと言うのか。
彼は「だめだ」とただ繰り返し、
しまいには言葉を途切れさせ、
聞こえてくるのは押し殺す嗚咽。


「何が駄目なんだい?
君に愛想を尽かされるような事でも
したかな?」
「ち、がうっ!」

強く握った拳を膝に押し付け、
それでも君は必死に涙を堪えて。
まるで捨てられた仔猫のような瞳。


「天真、落ち着いて話してごらん
落ち着くまで私は幾らでも君を待つよ」
「お、れ…、俺が…」
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