―NOVEL―

□―この手を離さないで―
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―この手を離さないで―




薄墨を引いた様な空に白銀が浮かび上がり、全ての生物が眠りに就く刻。
包み込むのは静かなる闇夜。
周りを見渡しオイラの目に映り込むのは、古ぼけた木製の壁と…




赤茶色の髪を持つアンタ。




猫っ毛を思わせるアンタの髪が寝息に合わせて、ふわり、ふわり、と揺れ動く。

同時に小さな唇が何かを告げる様に小さく動く。
まるで幼子を思わせる様な。

酷く小さく見える。

太陽の下で見るアンタは何かに構わずオイラの前を行こうとする。
だけど無防備な今の姿は、とても愛らしい…




――何処から見てもアンタが傀儡になんか見えない…




「…旦那?寝ちまってんのかい?」



返って来る筈の無い返事。

そっと腕を伸ばして柔らかそうに見える下唇を指腹でなぞってみる。
それは生身の人間同様に柔らかく、そして温かかった。

暫く眺めていれば端正に整ったアンタの眉間に皺が一つ刻まれた。


そして苦しそうに喘ぎ始める。
本当に人形なのかと疑問を抱いてしまう程に。



「ぅっ……、くっ……」


「おいっ旦那!?しっかりしろっ!」




思わずアンタの双肩を掴み前後に揺さぶっていた。




息が詰まったんじゃないかって




このまま居なくなっちまうんじゃないかって




置いてきぼり喰らうんじゃないかって








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