目を閉じる。
すると遮断された視界の中で栗毛色の髪は黒髪へ変化し、情けないたれ眉は方向を変え、我の強いあの男の姿になる。

青空を背景にしてマウンドに立っていた。かつて日常だった懐かしい情景。
サインを出してもいないのにモーションに入り、ボールを手放した。

取れるだろうか。
いや、取る。

「わけわかんねぇのが隆也だもんな」

わかってんぜ。
額に当てられた手のひらの熱さを思い出していた。

耳の後ろで反響する言葉たちが、白い記憶に飲み込まれて上昇していく。
このまま身を任せたならばあの夏の日々もあいまって、沸騰する湯面のように脳みそも溶けて流れるだろう。

ミットに収まるこの感覚は彼だけが与えてくれるもの。
好ましいものばかりでなかったけれど、生涯忘れはしないだろう。




続く

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