結果幸せならいいじゃないか。
そんな言葉は気休めだ。幸せは続かない。心の隙間は容易に過去へ引き戻すものだ。
現に数週間も前にあいつの背中が消えた扉を未練たらしく見つめながら、思い出すのは遥か昔のことだった。
しかも、あいつ以外の男との記憶。
ろくな思い出じゃないというのにこんな時に蘇るところをみると、人間ってのはとことん都合のいい生き物なんだな。
溜め息が漏れる。
「わからなくなった、よ」
阿部くんのこと。
口の中で呟いていたから語尾は聞き取りにくかった。
栗色の髪が光を含んで揺れている。
ワックスで整えてもなおどれだけ柔らかいか知っている。それがもどかしい。記憶の中でさえ手を伸ばしたくなる。
毎夜のように舌先でなぞった指先のタコ、そのおうとつで肌をなぞられるとどれだけ快楽を引き出されるか。
手首を掴まれるのもいい。体格は相変わらずなものだけれど、三橋はそういう時とにかく力が強い。
堪らなく粘着質だ。
抜かずの四発は当たり前。。
そうそうあいつの誕生日はすごかった。
プレゼントに自分自身を差し出したから。リボンをつけて。
「、、、ふぅ」
羽織っていたシャツの袖で口元を拭う。
(あぁ、だというのに。いっちまうのか。。)
続く