なくしてから価値に気づくなんて馬鹿だな。なんて、他人事だから言えるのだ。と、水谷文貴は思っていた。
今夜のように星のまばらな空は、白く浮かび上がって見えるこの部屋のバルコニーに似合う気がする。
初夏というには早い季節の風が、火照った体を掠めては突き抜けていく。
なんでもない時間。
手の中の缶を傾ければ流れていくビールは喉を潤し、伝い下りる。
なんともなしに伸びかけた栗色の髪を一掴みしてみると陽に焼けて傷んでいるようで皮膚に刺さるような感覚がある。
そういえば美容院の予約を入れてあったな。確か来週末だっ
たはずだ。
頬が冷えてきたので室内に戻りソファに横になると、携帯に着信がきているようで点滅している。
一通のメールだった。
送信者:栄口勇人
件名 明日の件
本文 お疲れ!
明日の飲み会来られそう?
オレは仕事大丈夫そうだから巣山と一緒早めに行くけど、水谷どうする?
明日は半年ぶりに西浦のメンバーで集まることになっている。卒業してもう十年近くたつというのに、誰かしらが企画をし、各々仕事もあるわけだから遅れて来たりということは勿論あるが最後には人数も揃う。
今回は仕事も忙しい時期ではないし、喜
んで参加するところなのだがどうにも気の進まない理由があった。
あぁどうして思いだしちゃったんだろう。こんな気持ち。
ずっとずっと忘れていたのに。出来れば生涯忘れていたかったよ!
本当ムカつく。
手にした携帯電話をおもむろに閉じ、クッションに投げつける。缶の中身を飲み干して、もう一度、ムカつくと呟きなおした。
続く