短編

□それでも冷めなかったのは
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衝撃は脳天へ達する。

少しでも深く体内に収まろうとする圧力に内臓は引きつり、悲鳴をあげかけるが、息を整える余裕はあった。
身体的をいうならば痛みは痛みという認識だけでそんなに傷ついたりしない。

ただどうしようもないのは、どうしようもなく屈辱的で涙腺が緩むほどの嫌悪感に耐えきれないのは、激痛ではなくてそれを溶かし、どこまでも広がろうとする快感だった。

「榛名」

耳元へ直接吹きこまれる吐息交じりの声。鳥肌が立つ。
後方からこみあげる感覚を増長させるように絡っていく熱に意識が引っ張られる。

嫌だ。嫌だ。どこか得体のしれない場所へ連れて行かれる。翻弄される。
嫌だ。
俺の身体は俺のものだ。全部俺だけのものだ。
手の甲を噛んで意識を留める。

「は、なせよ!」

絞り出した声は皮膚に吸われて低い呻き声に変わる。
苦しくてたまらない。咽の奥から込み上げるものを無理やりに抑え込む。うまく息ができない。

思わず爪を立てたタイルは硬くて指先に激痛が走った。
滑った感覚があったから流血しているのかもしれないが、薄暗い室内では確かめようもない。

擦りつけるようにして指を這わせていると、指先にも押し付けられた右頬にも、使い慣れた日中のシャワールームからは想像できないような冷気が伝わってくる。

それをもってしても微塵にも冷めることない体温に愕然とする。愕然とする理由。
考えは混乱を招き、過度な混乱は意識の離脱を促進する。
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