〜もう一つの世界〜

□最高司令官、再来
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碇ゲンドウは、高い位置から下にいるミサトを見下ろしている。




その彼の視線には、シンジのことは少しも入ってはいないだろう。



「……眼中になし……かよ……」




それがシンジには不愉快で仕方がなかった。父親なのに、父親ではない存在なのだ。上司と部下。いや、上司と駒というべきなのか。




「……碇司令。サードチルドレンの輸送、無事に完了しました!」






「……よくやったな。碇一尉」




とゲンドウは、シンジの報告にも顔色を変えずにそう告げる。しかし、シンジはそのまま動かない。





「凄く心に響かない感謝だ……」





昔は、この一言を聞きたかったのだ。聞きたかったからこそ、昔の自分はがむしゃらに戦っていた。



だがあの感謝の言葉にも、今の言葉にも、心は感じ取れなかった。あの時には気づかなかったが。




「……葛城ミサト君。君には今からやってもらいたいことがある」



とゲンドウは、シンジには目をくれずに黙ったままのミサトに目を向けていた。矛先が自分になって、彼女は視線を上にあげた。





「……君にはエヴァンゲリオンに乗ってもらう。そして使徒と戦ってほしい……いや、戦うのだ!」





「……え、え……?」




と、命令を出すゲンドウに半ば戸惑っているミサトを見て、シンジがすかさずフォロー役に回った。

ここいらでフォローをしておかなければ、疑念を持たれるだろう。


それに、彼は個人的に彼女のことをフォローをしてあげたかった。




「ま、待ってください碇司令!!綾波……レイでもエヴァとシンクロするのに半年以上もかかっているんです!!今日来たばかりの子じゃとても無理ですよッ!!」






「座っているだけでいい。……それ以上は、その子には望まんよ」




シンジの抗議にも耳を傾けず、ゲンドウはミサトを見続けている。


あの時には思わなかったのだが、あまりにも虫酸が走ってくる。



「で、ですが碇司令……!!」




「……碇一尉!今は使徒撃退が最優先なのよ?エヴァとわずかでもシンクロ可能な人間を乗せるしか方法はないわ!……それとも、貴方がエヴァンゲリオンに乗る?」




とリツコに鋭く咎められて、シンジは思わず息を詰めて押し黙る。

彼女との言葉での対決では、確実にシンジは勝てないだろう。

下手をすれば、彼は普通の喧嘩ですら負けそうな勢いだった。




「さぁ……ミサト。こっちで説明をするから、来てちょうだい?」




とリツコはミサトに促したが、彼女はそこから微動だにしない。微かにその体は細かく震えていた。




「……じ、冗談でしょう……?」




とミサトは弱く話してから、ゲンドウを見上げる。だがしかし、彼の顔は無表情のままだった。




「……説明を受けたまえ。君が一番の適任者なのだから。……いや、他の人間には不可能なのだよ」





「な、なぜ?……手紙が来るまで、関わりもなかったのにッ!!」




とミサトは強めに叫ぶ。確かに手紙がゲンドウから来るまで彼女は、なんの関係もなかったはずだ。


それなのになぜ呼ばれたのか。それがミサトにはわからなかった。




「……今は、君がNERV本部に呼ばれた理由を教えるつもりはない。知りたければ出撃しろ!!」



とゲンドウは、淡々と話す。そして彼の話はまだ続いていく。




「……君がやらなければ、確実に人類は死滅するだろう。人類の存亡が君の肩にかかっている!!」



ゲンドウは叫ぶ。しかし、彼女の首は横に振れている。それはつまり、彼女なりの拒絶の意だった。



ゲンドウはため息を吐き、下がったサングラスをくいっと上げる。





「……そうか、わかった。……君を呼んだ私が間違えていたらしい。君は帰れ。この職場に、君のような臆病者は不要だからな……」



とゲンドウはミサトを冷たい眼差しで見つめ、そう吐き捨てる。



「……!!」



ミサトは悔しそうに唇を噛み締めている。そして、シンジはそれを無言で静かに見つめていた。






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