〜もう一つの世界〜
□僕の選択
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『ンジ……シンジ君……!!』
なにやら、聞き覚えのある、ハスキーな声が辺りに響いていた。
シンジはムクリと起き上がり、砂浜や海などをゆっくりと見回す。
「……あれ!?……誰もいないのに。……いまのは、空耳かな?」
シンジは、自分が幻聴が聞こえるほど精神的におかしくなったのだろうか。と、少し首を傾げる。
『……かり……碇君……!!』
今度は聞き覚えのある、少し高めの声。自分の母に似ている声だ。
今の声は……あの少女だ。
「え……?あ、綾波ッ……!?」
そんな馬鹿な!!と、シンジは勢いよく、頭を左右に振っていた。
有り得ない。だって綾波は、本当は使徒で。あの時カヲルと一緒に溶け込んでいるリリスとして、シンジは彼女達を倒したのだから。
「聞こえるはずないじゃないか!だって、僕が殺したんだ……!」
とシンジは右手を左手で握る。
そうだ。それなのに、綾波の声とカヲルの声が聞こえるだなんて。
『あの姿は、シンジ君が自分で作り出した幻影だったんだよ!!』
その言葉を最後にして、二人はシンジの目の前に姿を現した。
あの最後に見た巨体ではなく、制服を身に纏った少年少女の姿で。
「あ、綾波……!カヲル君!!」
『ええ。……久しぶりね。碇君』
レイは無表情のままでシンジに話しかける。彼女は何もかもが変わっていなかったので、シンジにとってはとても嬉しいことだった。
『そう。……碇君。……セカンドを、殺してしまったのね……?』
レイは隣に寝そべる少女を見る。
彼女は、無表情だ。だけどその言葉は、シンジに重くのし掛かる。
「…………」
シンジはその場で黙りこくった。なぜか、彼女の首を絞めていた。
彼女の遺言は
キモチワルイ
この、たった六語だった。
『セカンドは死んでしまった……つまり、世界に生き物として存在しているのは、君だけだね……』
カヲルは、何やらやけに深刻そうな顔つきでそれを言ってのけた。
『……貴方、だけなのね……』
どうやらここで、形のある生き物として世界に存在していたのは、自分とアスカだけだったらしい。
「……そ、それがッ……!?それがなんだって言うんだよッ!!」
『そう……。……つまり、物事を決める能力を持っている人間は、碇君。……貴方一人だけなのよ』
レイは、相変わらずの無表情でとんでもない事をサラリと言った。
シンジは、半ば呆然としている。
「ぼ、僕だけってッ……!?……ちょ、ちょっと待ってよッ!!」
ようやく、事態を察知したシンジに、カヲルは淡い笑顔を見せる。
『そうさ。もしも君が僕達を消したいと願うとしよう。そうしたら、僕達は消滅するんだ。そこでずっと生きてきた。という痕跡すら残さずに綺麗さっぱりとね!!』
「そんなこと……出来るなんて!た、大変なこと……だよね!?」
カヲルの説明に、シンジは思わず、生唾をゴクリと飲み込んだ。
『……過去へと遡り、過去をやり直すこともできる。そして既に存在している人間の、性別以外ならなんでも変えることができる。年齢だって、勿論……性格だって』
レイの説明にも、シンジは度肝を抜かれてしまったのか、二度目の生唾を、ゴクリと飲み込んだ。
「そ、そんなことが、僕なんかに出来るってことなの……!?」
『そう。君だけに許された権利だ。……君は何がしたいんだい?』
カヲルが静かに、シンジに問う。
「つまり、過去を……別の形でやり直すこと、できるんだよね?」
そう言って考え込んでいるシンジは、ある考えを思い付いていた。
カヲル達はうなずく。
『うん、簡単にできるよ。……でもね、僕達には絶対にその考え付いたことは言ってはいけないよ』
『そう……。それは自分の心の中にしまっておいて。私達が知っていたら、きっと過去の私達もその真実を知ってしまうだろうから』
シンジは黙って頷いた。そして徐々に、シンジの体が光っていく。
「ありがとう……二人とも!!」
とシンジは、優しげに笑う。久しぶりの笑顔だ。そして、消えた。
光もろとも、シンジの体も。
『『さぁ、行ってらっしゃい……。新たなる世界の道のために』』
二人は顔を見合わせて微笑んでから、シンジと同じく消えた。
続く