灰男
□甘い貴方に恋をしない
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私の仲間の、艶のある黒髪を高い位置で束ねた青年は、甘いモノが本当に、本当に嫌いだったわ。いや、今でも嫌いなんでしょうね。
私が大好きな、食べ物の甘い物も、白髪の紳士の少年のような人としての甘い者も、貴方は嫌うわ。
あの青年はどちらも見るたびに、酷い悪態ばかりをついていたし。
でも、私はそのどちらも好きよ。
これは、私が貴方を好きだとしても、変えることは決してないわ。
だって、自分の楽しみを心にしまってから貴方に恋をするだなんてねぇ。私にはできないんだもの。
だから、私は貴方が大好きな食べ物を好きになったりも、しない。
お蕎麦だって好きでもないし。
お箸の使い方だって、日本語だって。貴方のために覚える気なんて更々ないわ。得がないじゃない!
ドイツ語だって、私は別に覚えてもらいたくもないわね。ネイティブじゃないドイツ語って、訛り方とかがちょっと変なんだもの。
でも、貴方にはその信念を貫いてほしいの。私に言われる前にもう貫こうとしているのは知ってる。
貴方には、甘い食べ物も甘い人達も、好きになってはほしくない。
だってそんな貴方は、私が好きになった貴方ではないんだしね。
そんな貴方の目の前でも、私はたくさん甘い物を貪るでしょうね。
……それで貴方がしびれを切らして、私が食べているものを一体どうするのかを、知りたいから。
いつものような鋭い悪態をつきながら、自分といるときには食うんじゃねぇと、まるで理不尽な暴力のような言葉を告げるのかしら。
というか、私はやめないわよ。
怒られても、やめる気はさらさらない。ストレスたまるじゃない。
……それとも、黙ったまま私がそれを食べ終えるのを見ながら、深いため息をつくのでしょうかね。
それなら私は、後者を選ぶのでしょうね。だって私は、貴方が嫌いな甘い食べ物が大好きな、甘い考えを持つ人間なんですもの。
私の好物に、悪態をつく貴方のことが、私はきっと●●なのね。
(……なんか甘い匂いがするな)
(あら。神田君が、これが大嫌いなのは知っているわよ。……貴方は、蕎麦でも食べたらいかが?)
(そ……そう、だ、な……!!)
あぁ、私はなんて●●な女なの!
end