灰男
□俺の想いヒト?
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「なあなあ、ミーランダ。ちょこっとだけ俺の手伝いを……!!」
「自分のノルマは自分の力だけで解決してくださいよ、お兄様?」
とミランダはノルマをサボろうとしたティキをすっぱりと切った。こういう時の彼女はやけに鋭い。
するとティキは少しばかり大袈裟に肩をすぼめた。顔は不満げだ。
「……なんだよ!?……俺が最後まで言い切る前に、断らなくったっていいんじゃねえのッ!?」
と言いつつも、ごく自然な流れでミランダの、肩やら腰をやんわりと掴もうとしたのだが、彼女はそれをも見抜いていたのだろう。
「どさくさ紛れに触らないでください本気で訴えますよお兄様」
彼女はその手が自身に触れる前に、強めにはたき落とした。
「んだよ、叩くことないだろ!?ああ、こんなキツい性格した妹がいるだなんて兄ちゃん悲しい!」
とわざとらしく両手で顔を覆ってシクシクと泣き真似をしてみた。
だが、ミランダはその兄をチラと一度だけ見て、ため息をついて、ふいと顔をそらしてしまった。
「ティキ兄様、私も貴方のような兄がいて悲しいですよ。私には泣き落としは通用しませんよ?」
と、とても痛い突っ込みをするとティキは手を顔から離し、自身の髪の毛をさっとかきあげた。
そして彼は不満顔でケースからタバコを一本だけ取り出していた。
「昔は可愛いげがあったなよ。昔っつっても10年程しか前じゃないけど。つか、タバコの時間止めたろ!?火花ってんだけど!?」
とタバコを見て不満げな顔はさらに歪んだ。このタバコからは先程から青白い火花が散っていて、やけに指が焼けている感覚もする。
「いってえ……ビリビリする!」
とティキは腕を振る。
なるほど、こういう時は手袋も役に立たないものだな。と的はずれなことも思ってみたりする。
「ああ、スミマセンいつもの癖です。解除してもいいですが、私がいない所で吸引してくださいね」
吸ってしまった煙を時間回復して体から出すのも面倒なんです。
とも付け加えられた。
「……わかったよ……ったく!」
とティキは、ため息をついてタバコをケースの中へと戻した。
いや、無理にでもここでタバコを吸ってやるのは可能は可能だ。
だがしかし、過去に吸った後の仕打ちが、あまりにも酷かったのでかなり残念だが吸わない。
一時の快楽よりも、命を永らえることを優先したいのだ。
ようするに、彼は臆病者なのだ。
小心者なのだ。
チキンともいう。
しかし彼には、認めることが容易にはできないことであった。
ここらへんからして、自分の器がそこまで大きくないという事に気づかなければいけないのだが。
「というかさ。ミランダにだって、ノルマがあるんだろう……?」
「ノルマですか?……改造されたらしきアクマを一通り消去することですかね。……私はもう終わりましたよ。それではまた……」
とミランダはコートをひるがえしながら方舟の中へと戻っていく。
「……ふううむ……なるほどな。……俺が惚れちまった女は、一筋縄にはいかないわけだな?」
と、タバコを取りだしライターで一本だけつけたティキは今まで一緒にいた女性を想いながら一服して、苦言をこぼしていた。
(まさかここまでキツイ性格とはなあ。おい?……とまぁ、面白いことにはなりそうだな……)
end?