灰男

□ファンブックの謎
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赤毛の青年は、白髪の少年のことを延々と呼び続けている。もう何回も。

「なーなー、アレンってば!」

「……仕方ないな。なんですかラビ?」

またかというようにため息を吐きながら少年はラビに返事を返す。

「この俺らのファンブックさ、なぁーんかおかしくねぇか!?ほらこれ!」

とラビは、ファンブックとやらを彼に突きつけていた。恐らくは中身を確認しろとのことであろう。


「はぁ……?失礼ですよラビ。このファンブックは僕らの生みの親の方が協力して作った本なんですよ?」



生みの親。つまり原作者に失礼であるとアレンはラビを叱った。
だがラビはぶんぶん頭を振る。


「いやいやほらここ!おかしいんだって!これちゃんと読めばわかるって!」


無理矢理、アレンの掌へとその問題のファンブックを押し付けた。こうなると、返すのはさすがに紳士としては失礼であるとアレンは考えた。

「全く……仕方ないですね……」

そういった紳士の心構えというのは女性に対してだけでいいとは思うのだが。

アレンはまず表紙に目を向ける。

「あれ、シンプルになってる。団服というよりは軍服に近いデザインですね……?」


その表紙の自分達の服装を見てから、そう声を漏らした。クールな配色だと思う。

「えっと、いるのは、まあ僕は当然として?リナリーとラビと……それからついでにバ神田に……あれえぇッ!?」

神田の名前がかなり間を開けてから言われたのは、別にそこまで問題視しなくても大丈夫であろう。

「なっ……なぜだぁ……!?」

アレンはわなわなと震えだした。

それを端から見ると、かなり怒り心頭という具合であろうか。

「……な、なんでこの中にミランダさんがいないんだああぁぁ!おかしいでしょ!?」


アレンは怒りの大絶叫をした。ラビは彼がここまでなることは予想外だったのか、肩をビクッと震わせた。

今この二人が会話しているのは教団の談話室である。いきなり誰かが入ってくるかもしれない。
だがアレンはそんなみみっちい事を気にするような少年ではなかった。


「おっおいおいアレン!落ち着けよ!な!?騒ぎすぎたらリナリーが来るさ!」

ラビは慌ててアレンを宥める。
ここで騒ぎすぎたら、室長の妹の魔王ことリナリーの足技がくる。今のとても強いリナリーの足が、モロに当たれば二人は瞬殺されるだろう。


「だ、だって……なぜミランダがこの表紙にいないんですか!?あり得ませんよ!とりあえずは僕の傍に書いてほしかったよ原作者さああぁぁんッ!!」

今度は、生みの親の原作者が怒りの矛先に触れてしまっている。原作者に失礼だとラビのことを叱っていたとは、到底思えない。

「ちょッ!アレンお前なぁ!そりゃないだろうが!?傍にいてほしかったってのは俺っちのセリフッ……!!」


「黙れパッツンヘタレウサギ!」


とアレンはラビを罵倒する。違う人物への言葉が混じっていた。

「ひっ!ひでえッ!!……なんでユウのパッツンが俺にまで入るんさ!?そんなのひどくね!?ユウならぴったりだけど……!!」


すると、ビの首の辺りから、固い金属音がした。彼は自分の身体中から、血の気が引く感覚を覚えた。

「ひっ!?……ユウさん……?」


「俺のファーストネームを言うとは、いい度胸じゃねぇか?それに、この俺に何がピッタリだって?このクソウサギ!!」


ラビは、神田が談話室に入ってきたことに気がつかなかった。ラビはアレンの表情を見てみる。アレンは涼しい表情でラビだけを見ていた。そして、その少年の口元は、ニヤリと歪んでいる。

(こいつ……!ユウがここに入ってきたの知ってたなッ……!?)

そのニヤリと微笑んでいるアレンは、紳士ではなく、腹黒の似非紳士へと早変わりしていたのだ。


「あ、アレンこの野郎……!!」

「あーあ。御愁傷様ですね、ラビ?」

少年はまたまたにっこりと微笑んで、そのラビを突き放した。

それは、もはや今から起きる大惨事を止めることはしない。

という暗示でもあった。

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