〜もう一つの世界〜
□咆哮、そして
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ビルをなぎ倒して沈んでいた初号機は、ゆらりと立ち上がる。
その鬼のような顔を上げた瞬間、初号機の右目が怪しく光った。
シンジにはゾワリと悪寒が走る。
『ギュオォオォオオォン!!』
その初号機の咆哮は、辺りに相当な地響きを発生させるほどで。
『し、シンクロ率が徐々に上昇しています!現在80.5%!!』
とマヤの明快な報告が聞こえるなかで、ただシンジは焦っていた。
(……暴走させてしまった。くそ!!僕がもう少し考えれば暴走は免れたはずだった!!歩く他にも、ATフィールドの展開のコツのつかみ方を教えられたのに!!)
と彼の頭の後悔でいっぱいいっぱいになっている。それには隣で立っているリツコが気づいていた。
「……随分と、焦っているわね」
反対に彼女は、嫌に冷静だった。
地上では、サキエルが初号機に突進していく。それもお見通しだったのか、初号機はそれをひらりと避けて背中を思い切り蹴りつけ、その反動で華麗に一回転した。
『なぜ、乗ったばかりの彼女がこんな動きを出来るの……!?』
とリツコは驚いていた。初めてシンクロした少女の動きではない。
もっと、修羅場を潜り抜けているパイロットのような動きだった。
『グオオォォオオオォンッ!!』
とまた初号機は低く咆哮する。
体を捻り、遠心力を使ってサキエルの左脇腹を、強く蹴り飛ばす。
サキエルは、轟音を響かせながら地面に仰向けに倒れていった。
崩れ落ちたサキエルを見据え、初号機は一瞬で左腕を復元させる。
それは本当に一瞬の出来事で。
『……す、すごいわ……!!』
それをモニタリングしているリツコが、興奮気味に喋っていた。
『うわぁ……相変わらずの理不尽な高性能っぷりだな……!!』
『……どうしたの、独り言?』
と自分の世界に入ったシンジに聞いてはみたが、どうやら本気で精神的にトリップしたらしい。
ぶつぶつと呟く同僚を見て、リツコは深いため息をついていた。
直ぐ様サキエルは起き上がり、初号機につかみかかるが大きく後ろに飛ばれてそれも叶わなかった。
着地した反動を使い、初号機はさらに大きく空中へと飛躍する。その姿は鬼にも、死神にも見える。
それほどに異様な姿だった。
『ひでぇ……どっちが敵だかわからないな、これじゃぁ……!!』
とマコトは青ざめながら呟いた。
その勢いで初号機は、足の膝の部分の器具を赤く輝いているサキエルの命の源、コアに叩きつけた。
ガスッ!―――――バキィッ!!
辺りにはその赤い欠片が飛び散る。自分の最後を感じたのか、サキエルは初号機に自分の最後の力を出しきって、抱きついた。
『な、自爆する気なのッ!?』
とリツコの声に、シンジもやっと我にかえってモニターを見る。そこには、赤い炎が起こっていて。
『……初号機は無事なのか!?』
めらめらと燃え上がっている凄まじい炎を消すがごとく、鬼にも見える初号機は姿を現していた。
ミサトは、エントリープラグの中で、ただ無表情で座っていた。
「ふん。……シナリオ通り、か」
このゲンドウの呟きは、隣に佇む冬月にしか聞こえなかった。
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