〜もう一つの世界〜

□最高司令官、再来
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ここには、本部の司令官、二名がいる。最高司令官は机に肘をついて、微動だにしていない。それは、以前と変わらない背景だった。





「……碇。そろそろ君の先輩の娘さんがこちらに来るそうだが。……碇。君が迎えに行くのかね?」




と、初老の男性がその肘をついている、寡黙な男性に尋ねている。



「……ああ……そろそろ行くさ」




少しの沈黙の後に、サングラスをかけた男性が、腰掛け椅子からゆっくりとした動作で立ち上がる。


その男性の表情は、笑顔だった。




「……冬月、私は最初からそのつもりだ。……しかし、その先輩というのは今後はやめてくれ……」



と初老、冬月のミサトの父親に対する呼び名に、碇ゲンドウは若干だが、眉をしかめていた。





「うん?……ほぉ。……君は嫌いなのかね?……葛城博士が?」




と聞いてくる冬月に、ゲンドウは首を横に振っている。サングラスのせいで、余計に冷たく見える。




「いや……博士は関係ないが……先輩という言葉は、私は苦手だ」





別に葛城博士が嫌いなわけではない。だが、先輩という言葉が苦手なのだ。なぜだか、虫酸が走る。


その娘にはなんの責任もないが。

先輩と呼ばれるのも、嫌だった。




「そうか。……全く……外はまだ、戦自共が暴れているらしいな」




モニターには、ミサトが肉眼で見た使徒が映っている。街から出る炎や黒煙がもうもうと立ち込め、ゆっくりとそれは前進していく。



「ふん……。無駄を無駄とわかろうともせんとは、哀れな連中だ」



とゲンドウは冷たく吐き捨てた。サングラスを指で押し上げる。




使徒には、地雷が襲ったというのに、表面にしかダメージはない。





「目標は、なお前進中!!最終防衛ラインを突破しました!!予測目的地、第3新東京市です!!」



こんな報告も、耳に入ってくる。






地雷を使用しておきながら、使徒はなおも前進しているらしい。

やはり戦自は、役には立たんか。

まったく、あの連中は存在自体が税金の無駄だということだな。





報告を聞きながら、冬月はため息をついてから深く考え込んだ。




この隣にいる男が出す命令に、流石の冬月も肝を冷やしそうだ。




「ふん。……よし、総員第一種戦闘配置!……冬月、後は頼むぞ」




とゲンドウが指令を出すと、NEVR職員は慌しく行動し始める。そして冬月に後の指示一切を任せてから、彼は出て行った。



予想が的中して、彼はため息一つ。それも深く深く地の果てまで。




「あいつも人間ということか……?あのような無愛想な男からシンジ君のような息子が出来たなど、誰も信じないのも納得できるな」





今去った自分の上司に、冬月はため息交じりの苦言を漏らした。







―――――――――――――――






そして……。リツコ、シンジ、ミサト達は初号機の格納庫に行くために、簡易ボートに乗っていた。




「……じゃぁ、あの地雷は使徒には効かなかったんだ……!?」



とシンジが、口火を切った。ずっと話さずにいることは可能だったが、それではあまりにも退屈だ。




「表層部に、少しのダメージを与えただけよ。使徒は依然進行中よ。……やはり、使徒もATフィールドを持っているみたいね……」



とリツコは、一息でそれを言ってから重くため息をついていた。

……やはり、な。

と思ったシンジではあったが、流石にそれを顔には出さなかった。





ボートが通った壁には、突き出した何かの腕が見えたが、あれは多分零号機の腕か何かだろう。幸い、ミサトは見ていないらしい。


つまり綾波は、今回も起動実験で重度の怪我をしているらしい。




「それを敵も使用してくるとなると……。僕達人類との戦いも、もっと困難になるってことだね?」




「そういうことよ。……おまけに敵は学習能力もあって、外部からの遠隔操作ではなく、プログラムによって動く知的巨大生命体とMAGIは分析したわ。つまり、エヴァと一緒というわけよ!!」




「エヴァ?……一緒……?」




とリツコ達の会話を聞いていたミサトは、ポツリと呟いていた。



そうした会話が途切れると、目の前には数字の1が大きく記入された壁が見え始めてきた。どうやら無事に格納庫に着いたようだ。




「……ふぅ。やっと格納庫に到着したわ。動かないでね二人とも!!……電気をつけるからね?」




とリツコが、なんらかのレバーを作動した。すると辺りには次々とライトが付きはじめる。そして三人の目の前に現れたのは、鬼のようにも見える紫色の巨人だった。





「ろ……ロボッ……ト……?」



とそのあまりの衝撃に、ミサトには理解が出来なかったらしい。

彼女の目は、白黒としている。


リツコはその発言に眉をしかめたが、上手く取り繕いながらミサトが閉じたファイルを手に取った。




「これはロボットではないわ。汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン。人類の最後の切り札よ。そして、これは初号機……」



と懇切、丁寧に説明したリツコ。






「あ、あの……赤木さん、ミサトには、その人造とか汎用とか理解できないと思うんだけど……?」




と話してから横目でミサトを見ると、彼女は理解できていない気がする。ちんぷんかんぷんだろう。



現に以前リツコにそう言われた自分も、理解はできていなかった。





「……それもそうね。ミサト、これはロボットのようなものよ。ちょっと性能が人間臭いところがあるから、人造人間。わかった?」




「はぁ……なんとなく理解できます。つまりこれが、手紙を寄越してきた人の仕事ですか……?」



とミサトは、相づちを打った。



余談だが、ミサトはきっちり理解している。リツコが最初に言った言葉だ。彼女の頭は、キレる。




「……そうだ」



と辺りに低い男性の声が響く。ミサトは驚いたような表情になったが、シンジはその声を聞いた瞬間自分の顔が強張ったのがわかる。




「碇……司令……父さん……」




初号機がいる場所の、少し高い場所に立つのは、碇ゲンドウ。そう。この場所の最高司令官だった。








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