短編小説
□『銀水晶』
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「……ねぇ、美奈子ちゃん」
「ん……なぁにうさぎちゃん?」
私は大切なうさぎちゃんの声で笑顔で振り返って、息を飲んだ。
だって……いつものうさぎちゃんのような可愛い笑みじゃなくて。
なんだか、思い詰めたような……そう。あの、フィオレが襲ってきたときのような表情だったから。
「……どっ、どうしたの!?」
と私は少しだけ焦りながら、うさぎちゃんに慌てて聞いていた。
「うん……あの、ね……?」
と切り出すうさぎちゃんの声を一言も聞き逃すまいと耳を傾けた。
「……私って、なんなのかな?」
「は……はい?」
予想外な彼女からの質問に、私はすっ頓狂な声をあげちゃった。
……だってさ。うさぎちゃんは、うさぎちゃん。でしょう?……それ以外、なんでもないでしょ?
「もう……!!うさぎちゃんったら、どうしたのよ?うさぎちゃんはうさぎちゃんでしょうッ!?」
と私は答えたのだけど、うさぎちゃんはその答えでは不満みたい。
弱々しく首を横に振るばかり。
「違う……違うんだよ……違うんだよッ!!美奈子ちゃん!!」
と、俯きながら答えるうさぎちゃんの声は、心なしか震えてる。
私は、直感的に、この子の心が泣いているんだ、と感じとった。
「月野うさぎ、セーラームーン。プリンセスセレニティ。ネオクイーンセレニティ。私は誰なの?誰でもないの!?わかんないよ!」
と私に、泣きついて……うーん、違うわね。タックルしてきたわ。
ちょっと痛いけどうさぎちゃんの心は、もっと痛い、はずだから。
「……大丈夫よ!……うさぎちゃんはうさぎちゃん。なんだから。セーラームーンじゃないしプリンセスでもクイーンでもない……。月野うさぎなんだから、ね?」
と私がうさぎちゃんを軽く抱きしめたあとに、ウインクをした。
「み……美奈子ぢゃん……!うっ……うぁああぁああん!!」
と、うさぎちゃんは大泣きしながら私の胸にすがり付いてきた。
そんなうさぎちゃんの頭を柔らかく撫でる。とても暖かい。うさぎちゃんは私を暖かくしてくれる。
体を。心を。
確かに、銀水晶や未来のクイーンも大切な存在ではあるわ。でも私には……いいえ。私達には……。
『月野うさぎ』
という……これ以上ない大切な存在が……一番なんだからね?
fin