捧げ物(裏物)
□白衣とビールとペンダントと
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ここは、リツコの家だ。
どっちが誘ったのかは、もう覚えていないくらいに酒を飲んだ。
リツコはワインを。
ミサトは、もちろんビールを。
文字通り、浴びるように飲んだ。
「リツコの家、なんか臭ぁい!」
とミサトはニヤニヤと顔を緩めて言いながらビールをあおる。
なんだか、薬の臭いがする。職業柄仕方ないのかもしれない。自分には到底好きになれない臭いだ。
「ミサト!いい加減に飲みすぎじゃないの?……ビールはもう、おしまいにしてちょうだいよ!!」
リツコがビールを取り上げる。呆れたような目をして、私を見る。
子供扱いされている気がした。
「……リツコったら大人ねえ。なぁんか私を子供扱いしてない?」
と、ミサトはぶーたれている。
膨れっ面な彼女に、リツコはくすりと微笑みをこぼしていた。
「あら。仕方ないじゃない。ミサトが子供なのは事実なんだから」
とリツコはワイン片手に優雅に微笑む。やけにその動作は綺麗で。
悔しいが、それは確かに綺麗で。
「むー……なんかムカつくわね。どうせ私は子供ですよーっだ!いつまでも大学生気分ですよー!」
ミサトは手持ち無沙汰だったせいか、首にかかったペンダントを右手でいじる。
これは一種の癖だ。
少し辛くなったとき、悔しくなったとき、泣きたくなったとき。つまり、これは精神安定剤に近い。
「あらあら、拗ねちゃったの?」
と、リツコはミサトの顔を見る。
こういうところも、少し綺麗で。完敗だ。絶対に言わないけれど。
「あーあ!なぁんか悔しいわね……ワインなんか飲んじゃってさ」
とついつい、彼女に憎まれ口を叩いてしまう。自分の素直になれないところに嫌気が走る。本当はそういうところも、好きなくせに。
綺麗だな。なんて、似合っているな。だなんて思っているくせに。
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