アダムに挑んだモノ達
□ヤマアラシのジレンマ
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好き合っているのに、互いに恋をしているのに互いに傷つけあう。
それが、人間というものである。
まるで、それはヤマアラシのよう。たくさんの棘があるみたい。と彼女達は、苦い顔で笑っていた。
「そういえば、アンタよねぇ?」
とミサトが、ぼんやりとリツコを見ながらそうとだけ聞いてきた。
しかし、彼女の伝えたいことがリツコにはわからなかったのだ。
彼女は時々、要領を得ない質問をしてくる。そこは勘弁願いたい。
「うん。……なにが……?」
マグカップに入ったコーヒーを少しだけ飲んでから、隣で同じように未開封のコーヒー缶を持つ彼女を、ゆっくりと見返していた。
「えぇと……なにが、かしら?……よくわからないんだけど……」
とだけ聞き返すと、ミサトは少しだけ考えるように、腕を組んだ。
目は真剣だが。
「……えぇと……ね……」
これは、彼女の癖である。あまり考えていないときには、彼女は必ずといっていいほどに腕を組む。
「……ほら、アンタ言ってたじゃない。互いに求めあってんのに傷つけあう動物がいるって話……」
と、うろ覚えなのだろう彼女のその言葉に、リツコは軽くうなずいた。やっと、理解ができたのだ。
いつ話したのかは覚えていないらしい。無論彼女も覚えていない。
「……あぁ、わかったわ。……ヤマアラシのジレンマの話よね?……互いの棘で傷つけあう動物よ」
とリツコは彼女を見ながらそれだけを答えた。すると彼女はそうだとばかりに相づちを打っている。
「あぁ!!そうそう、それよそれ!!でも……あれってさぁ、人の心と同じなんじゃないかしら?」
と、腕組みを解きながらそう答えた彼女は、少しだけ寂しそうで。
「ちょっと?……どうしたのよ、ミサト?貴方らしくないわね」
それを見たリツコは、柄にもなく少しだけ狼狽えてしまっていた。
「ううん……ちょっと……ね?」
どうやら、それは彼女には気づかれはしなかったようだが。
「あら、貴方がそんなマイナス思考になるだなんて珍しいわね……保護者としての相談、かしら?」
微妙に語尾を緩めながらたずねると、ミサトは頭を少しだけ軽くかきながら、苦く笑っていた。
「ふふっ……流石は、リツコよね。……なんでもバレちゃう……」
と彼女は、息をつき悲しげに笑った。どうやら図星だったようだ。
この大人のような子供は、その年にしては少しだけ大きめの子供を、二人も抱えているのである。
しかも、一番精神的に不安定になっている年の子供を二人もだ。
アスカもシンジも、家族を求めている。しかし、反発しあうのだ。
特に、アスカが。
「アスカとシンジ君がもうスゴいのよ。……突っかかってるのはアスカだけなんだけどさぁ……?」
と、子供達のことを軽く苦笑しながら話す彼女は、保護者というよりは、かなり年の離れた姉の方が、まだしっくりときていた。
「当たり散らしてるように見えて……お互いに依存してるのよね」
とミサトは低く唸っている。
あの子供達の年の頃には、彼女は、言葉を失っていたのだ。だから一番面倒で、一番大切な思春期を過ごしてはいなかったのである。
「あら、保護者役を買ってでた貴方がそんな弱音を吐くなんて。……アスカもシンジ君も、家族を求めているわ。……でも、お互いに素直になれていないだけなのよ」
とリツコは話してから、マグカップに少しだけ残っていたコーヒーを一気に飲み下す。そして、そのままの勢いで煙草に火をつける。
「依存しながらも反発するのが……。思春期の子供達の傾向よ?」
私が依存しているのは、煙草だ。
その煙草を、口にくわえようとした。だが、それはできなかった。
それはミサトがリツコの頬を、優しく掴んでいたからであった。
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