小説
□甘い病
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三井寿は喜んでいた。
「寿、明日お父さんと法事行ってくるから。晩ご飯何か買ってきなさいね。」
「法事ぃ?なんだよ、誰?」
「えぇと…お父さんの…おじさん、だったかな。あんまり付き合いない人らしいんだけどね。」
だからって、行かないわけにもね、と言う母親に見えないように、ニヤリ。
長野なのよ、帰るのは明後日かしらね、と言う母親に見えないように、ガッツポーズ。
(明日はぐちゃぐちゃ言われねーぞ!)
三井寿、18歳。
つい最近まで、所謂『グレていた』彼の日常生活において、母親の干渉は少なくない。
深夜NBAを観ていれば、
「明日も学校なんだから早く寝なさい。」
部活後に自主練して帰宅が遅くなれば、
「随分遅かったのね何かあったの?」
風呂上がりに薄着でいれば、
「早くあったくしなさい風邪引くわよ。」
自分の過去によろしくない点があったのは認める。
認めてはいるけれど。
(いーかげん風呂だの寝る時間だの口出すな!)
と思う彼の気持ちも、理解し難いものではなく。
(明日は夕飯食った後菓子食おーが、風呂上がりぼけっとしてようが、3時までNBA観てようが、何も言われねぇ!)
などと、実に可愛らしい喜びを前日から噛み締めて、今に至る。
とまぁそんなことで。
いつものように「寿、髪乾かして早く寝たら?冷えるわよ。」と言う母親の言葉も、明日は聞かなくて済むと思い、生返事をしてノロノロと自室に迎う元ヤン三井寿だった。
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