小説2

□重くて立てないその日まで
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「オレ、そういうのちょっとわかんねーんだよ」


放たれた言葉に、オレは一瞬頭が真っ白になった。






  重くて立てない
      その日まで








わかんねーってどういうこと三井サン。オレのアンタに対するスキがどういうもんかわかんねぇって意味じゃないよね?オレの気持ちには応えられねぇって、そういうこと?
一気にまくし立てるオレから、気まずそうに目を逸らす三井サン。

待てども三井サンは黙ったまま。どうなの三井サン、アンタ何がわかんないの。余裕のねぇダセェ男になってるのはわかってる。わかってるけど、追い討ちをかけるような言葉が止まらない。あんな腐った生活していたくせに、嫌になるほど綺麗な目が不安げに泳いでる。

そんな顔もスゲーかわいい。そりゃついさっき一世一代の大告白した相手だしね。かわいいに決まってる。ほんとは笑った顔が、オレの気持ちを受け入れてくれて、ほんっとにあわよくば、オレも好きだぜお前の気持ち嬉しいよ付き合おう、的なセリフ付きの笑った顔が見てぇけど。


こんな寒い時期に部活帰りなんて時間を選んじまったもんだから、アンタはマフラーに鼻先を埋めてる。
ごめんね三井サン。ちょっとでもロマンチックな方が…なんて狙わなきゃよかったかな。何も言わない三井サンに、さすがにオレの心もちょっぴり折れそうになってきた。お互い口を開いてないのに白い息が漏れてる。鼻息まで白くなるってことは、やっぱ今日スゲーさみぃんじゃんオレのバカヤロウ、なんて下らないことが頭の隅に浮かんで消える。

このまま気まずくなっちまうのは、この人にかなり脳内をヤられてるオレとしてはどうしても避けたい事態。だけど、今さら冗談には出来ないこの空気。

もうこんなじっくりと、この人の目を見られることはないのかも。

そんなブルーな気持ちを抱えるオレの視線に耐えかねてか、三井サンがマフラーから顔を上げた。

「……オレ、」

ふるりと空気が震える。


「お前のオレに対するスキってのが、よくわかんねぇ」

ブルーな気持ちが瞬時に消えて、ほんの一握りの可能性に心臓がバクバク鳴り始める。オレのアンタに対する気持ちがどんなのか、これから嫌ってほど伝えるよ。だからチャンスをちょうだい三井サン!


そう言おうと勢いよく口を開いたオレは、


「っていうか、オレ、スキがよくわかんねぇ」


続けられた言葉に、本日二度目の頭真っ白。



スキがよくわかんないって…え。何それ。

しばらくフリーズした後、ようやく起動したオレの頭。思わずそう呟いてしまえば、悪かったな、とぶっきらぼうな声が返ってくる。慌てていや悪くはないじゃないすか、とフォローするけど、目の前の人はすっかり不機嫌モード。さらに慌てたオレは、じゃあ三井サン恋したことないの、なんて言わなくていいことを口走る。

ギロリ、と不良時代に身に付けたであろう目線が寄越され、また慌ててあっスイマセン変なこと聞いちゃって、なんてフォローにならないフォローをする。

どうしよう、怒らせたいわけじゃねぇのに。三井サンのプライドを傷つけない程度に、スキがどんなもんか、ついでにオレがどんなにアンタを思っているか伝えようと言葉を選ぶうち、なんだか上手く言えなくて無言になるオレ。

やばいやばいやばい。
せっかくのチャンス、かもしれないのに。

オレが脳内会議に勤しんでいると、先に口を開いたのは三井サンだった。


「…お前、オレのことかっこいいって思うか?」

完全ナルシスト発言。だけどこの人なら許される。
会議を一旦休止して、三井サンの質問に応えてみる。

かっこいい…けど。

「オレ、どっちかって言うとアンタのことはかわいいって思う」
かっこいい時もそりゃあるけど、と付け足すと、どこか不満顔の三井サン。

「…オレのどこがかわいいのかは、まぁどうでもいいけどよ……見た目いいなーって思えば、それがスキなのか?」

いやいや、それは違いますよ。見た目だけだと思われたら一大事、すぐさま否定に入るオレ。もっと話がしてぇとか守ってやりてぇとか、休みの日も一緒に居てぇとか、色々思いますよ、なんていつの間にかスゲー恥ずかしい告白をさせられるオレ。

顔の温度が上昇したのを感じつつ反応を待てば、へぇ、なんて物珍しいもんでも見るみてぇな反応。

「…よくわかんねー…でも、じゃあオレは、別にお前のことスキじゃねんだな」
お前のこと守ってやりたいとか考えたことねぇし。


グサッッッッ…と来た。
来たけども、ここで諦めちゃ気まずい明日とこんにちはだ。…よくやった、振られたも同然の一撃に耐えたオレの精神はスバラシイ。

いやいやちょっと待って三井サン!今オレが言ったのはほんの一部であって!と必死にまくし立てるオレ。

でも考えれば考えるほど、スキってなんて言えばわかってもらえんのかオレにはわかんねー。あぁでも諦めたくない、スキすら知らない初でかわいすぎるアンタを、他のヤツにプレゼントなんて勿体なくてできるはずないしたくない。

スキ、大好き三井サン愛してるんだよ、どういう気持ちを抱いたらイコールスキ、なんていう確実な方程式をオレはバカだから知らねぇけど。だけどほんとに愛してるんだよ、こんな風に色々してやりてぇって思ったのも目が離せねぇのも友達にまで嫉妬すんのも、寒くて紅くなった鼻がかわいいだとか思うのはアンタだけ、




アンタ、だけ…









あぁ三井サン、オレは今気がついたよ。

「オレのアンタへの想い全部が『スキ』なんだよ」

疑問だらけな表情のアンタもたまんない。言い表せられるわけないんだよ、アンタがそこにいる限り、アンタへのオレの想いは、無限に膨らんでいくんだから。

ねぇ、三井サン。

スキってどういうもんなのか、しりたくねーすか。


あぁ、まーちょっとは…なんて強がって。知りたいくせに。んな見栄っ張りが愛しくて仕方ないのは、アンタだけ。

ぐっと距離を縮めたオレを怪訝な顔で見てくる三井サン。かわいいけど、そんな不安な顔しちゃやだよ三井サン。


とりあえず、

「スキってのはね、爆発すると、こういう暴走するような、」


形のいい、だけどちょっとかさついた唇にちゅ、と音を残してキスをする。

「そんな、ものなわけっすよ」

固まってる三井サンの唇を、離れ際にぺろりと舐める。


呆然とした三井サンは我にかえった途端オレを怒鳴り付け、ごしごしと唇を制服で拭う。ヒッデーの。

そのあまりにベタな態度にオレが笑うと、また怒鳴る。

「怒鳴っても無駄っす」

オレにはかわいいだけっすから。へらりとそう言えば、泣き出しそうなぶち切れそうな恥ずかしくてたまらなそうなアンタ。

ブルーな気分はどこへやら。ねぇ三井サン、オレにとって、今日は大事な始まりの日。


スキがわかんねー、なんて言ってる相手に遠慮はいらない。オレのスキ、アンタが抱えきれない膨らんでるこの想い、ぶつけてやるから。



だからね三井サン、アンタは一生オレのスキを受け止めなきゃいけねぇの。






オレにスキを返さなきゃ、きっと重くて立てねぇよ?





「覚悟しててね三井サン」

真っ赤な顔で、何をだよバカヤロウなんて言ってるけど。


「オレのスキがどんなもんか、一生アンタにぶつけてくから」

意味わかんねぇってオレに背を向けるアンタの両手は。











もうきっと、



何も持てない位、







end

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