薔薇マリ壱

恐雨
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「ただマリアの顔を一目でもいいから見たかっただけだから…」

そう言ってアジアンは振り返り降り続けている雨の中を進んでいく。その後ろ姿はなんだかとても悲しそうで…寂しそうで…。この世界には自分しかいらないっていっているような…そんな孤独感を感じる。

「ちょっ…アジアン…!」

そう感じた瞬間、僕は何も考えずにアジアンのもとに走り寄ってアジアンの外套をギュッと掴んでいた。

「…どうしたの?」

そうしなきゃアジアンは二度と僕の目の前に現われないような気がしたんだ。

「…………」

アジアンは進んでいた足を止めはするものの僕の方を見ずに雨が降り落ちる水溜りを見るように俯いている。

「…アジアン…?」

いつもは優しく抱きとめてくれる腕も外套のポケットに入れたままで僕に触れてくれる気配はない。

「…………」
「…………」

ザァーザァーと降り続ける雨に打たれて身体は徐々に体温を奪われていき、カタカタと身体が震えるけどそんな事はどうでもいい。

「…い…で…」

今は、そんなことよりも…

「行かないで…」

君がどこかに行ってしまうほうが恐ろしくてたまらない…。

「…お願い…行かないで」

ギュッと掴んでいる手の力をもっと強くして絶対に放さないという意思をアジアンに示すが、アジアンからはなんの反応も返ってこない。

「…お願…い…」

それでもなお、アジアンを放さないでいると段々と音が遠くなっていく。

「……………っ…」

冷えた身体も寒いと感じない…。

「…ア…ジア…」

足の力も徐々にぬけて、雨の溜まった地面に崩れ落ちる。

「…マリア?…マリアっ!?」

最後に覚えているのは、ようやく僕を見てくれたアジアンの必死になった顔だった。
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