誅 殺
□嗜好品
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先生は甘いものが大好きだった。
チョコレート、お菓子、アイス、
そして、煙草。
「先生ー!」
お昼休み、屋上。先生の喫煙所。そしてあたしの休憩所。
鉄の扉を開けると向こうに見えるのは青色と銀色だ。
先生はいつも通り柵にもたれて煙草を吸っていた。
白い煙りと綿菓子みたいな髪が、優しい風でゆらゆらと揺れている。
(あ、美味しそう)
「先生、煙草変えた?」
先生はいつも、チョコ色でチョコ味の煙草を吸っていた。
アークロイヤルスウィート。先生に内緒で一度吸ってみた事があるけど、本当に甘くて、本当にチョコレートの味がした。
(煙草まで甘いなんて、如何にも先生らしい)
あたしはその匂いが、嫌いでは無かったのだけれど、
「ああ、ちょっと気分転換。」
残念。いつかチョコレート味のキスができるんじゃないかと思ってたあたしの煩悩よ、さよなら。
そう思いながらパッケージを見ると、どうやら銘柄は変わってないらしい。
そこには大きな文字でアークロイヤルと書かれていた。
「先生、今度の煙草は何味?」
「んー?知りたい?」
「うん、知りたい。」
「教えてやろうか。」
教えてください、先生。
言おうとした言葉は、先生に飲み込まれて消えた。
唐突に降って来たそれは、甘い甘い、唇だった。
(そのキスは、バニラの味がした。)
「わかった?」
「…バニラ、味?」
「正解。良くできました。」
先生はにっこりと笑ってあたしの髪をぐしゃりと撫でた。
あたしは心臓が潰れてしまいそうな錯覚に陥る。
「じゃあ正解のご褒美に、」
(もう一度キス、してやろうか?)
吐息を含むその声が、苦しい程、甘い。
あたしは初めて煙草を吸った時のように、脳が酸欠を訴え、頭がくらくらと揺れた。
先生はとても優しく笑っている。
耳元で囁かれたそれは、何とも甘美な響きを持っていた。
(けどな、)
(俺の一番の嗜好品は、お前。)
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