tale

□義兄の受難
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義兄の受難





ある夜のこと。折しもゴールデンタイムであったその時間、テレビから流れてきたワードに反応したメタルスダイノボット(風呂上がり)は、濡れた髪もそのままに居間のソファーにどっかと腰を下ろした。

<―――だなんてホント、目から鱗が落ちましたよ〜>

テレビ画面を凝視する視線は熱く、今にも目から光を出しそうだ。画面の男性はあまり知性的でない笑みを作り、番組はその後タイムスケジュールに沿って別の話題へ移っていく。だが、Mダイノボットはずっと先程の言葉について考えていた。

目から、鱗が、落ちる

「………」

Mダイノボットが目を眇めた。

(落ちるってことは…その前はついてるのか。鱗が)

「…………」

赤い輝きに、そっと手をやる。

(俺の目に、そんなものついていただろうか)

…鏡、と思いついた時だった。Mダイノボットの頭に、ばふっと布がかけられ、そのまま布越しにがしがしと揺すぶられる。

「おいこらてめぇ何度言ったらわかるんだよ!風呂から出たらすぐに頭拭けって、俺なんっかいも教えたんですけどー!?」

なんだと言われた通り風呂に入るときは服を脱いでやってるし出たら着てるだろうが何か文句あんのか。
普段の彼ならそれぐらい言い返して喧嘩になっただろうが、今日のMダイノボットは違う。大人しく髪の水気を拭き取られながら、「気をつける」と一言返したのみだった。らしくないその反応に、スコルポスは一瞬固まってしまう。

「…オラ、なんだお前…腹壊したのか?…気分悪いの?」

恐る恐る尋ねるが、スコルポスの頭にはお腹の調子を崩したMダイノボットの姿なんてこれっぽっちも浮かんでこなかった。

シルバーグレーの髪は見た目通りの直毛で、思いっきりぐしゃぐしゃにできる機会は貴重だ。(悔しいことに身長も足りないし)実はこの感触が楽しみで、スコルポスはわざわざ風呂上がりを狙ってMダイノボットに会いに来ていたりする。

初めのうちはどうにかこいつと慣れようという狙いがあったのだが、さて。その考えを忘れるようになったのは、いつの頃からだったろうか。

タオルを扱っていた手を休め、スコルポスは心配そうに紅い目の奥を覗き込んだ。

「………」

ちてきこうきしんってやつだ。

後にMダイノボットはそう言った。

「おい、めたっ!?」
バスタオルが床に落下する、不似合いに軽々しい音。突然、スコルポスは太い腕に痛いほど締め付けらた。

「いっ…!っま、おまっ!やめろよオイッ!?」

ぎりぎりと絞り上げられる痛みに悶絶し必死でタップしたお陰か、腕の力はしばらくして緩んだ。しかしどさくさでスコルポスの顎をしっかりと掴んだ指が離れることはなく、その強固な締め付け故に首を捻ることさえできない。

「……」

「黙ってちゃわかんねぇし…つか、あの、ダイノボットさん?近いんですけど」

強制的に引き寄せられたせいで、今のスコルポスは目の前の男の膝を跨ぐ形で腰掛けさせられていた。ぶっちゃけ居心地悪いぜと身じろぎするも、Mダイノボットが解放してくれる気配はない。それどころか、話を聞いてすらないだろう。

「…メタルス、ダイノボット?」

答えない。

眼窩の奥まで見尽すような、彼特有の真っすぐな視線に、あぁもうこいつ聞く耳ねぇやとスコルポスは諦めて体の力を抜いた。

物言わぬ大男にじっと見つめられると、正直なところ落ち着けない。キロリと動く紅い目玉は、近くで見ると呑まれそうで少し怖い。そして風呂上がりでアイスコープや爪を外した姿は、当たり前だがあいつに似ている。



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