Present

□No.14441御礼。海さまへ
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ある朝のこと。俺が目を覚ますと、ウチの大将とそのお師匠さんが部屋の中でチャンバラをしていました。

よくわかりませんが、恐らく、自室でティラノヘッドをぶちかますのは嫌だったのでしょう。メガトロン様は、見覚えのある長物を手にしていました。それがなぜコンボイのサーベルのうちの一本であるのかは、俺には思い及びもしない領域のことです。ちなみに、クライオテック様は素手でした。ぶっちゃけ、防戦どころか逃走一方です。

「…?」

なに、この状況。

小鳥の鳴き声で目が覚めるような優雅な生活を送ってるわけじゃないですが、重い刃物が空を裂く風切り音で目覚めるってのは中々に波乱の幕開け感たっぷりで、もう二度と布団から出たくなくなります。この流れで行くと、ええ、もちろん。瞼の裏でもチラチラ光っていたのは朝陽なんかじゃなく、銀色の刀身に照りかえった室内灯です。

なんで敬語で喋ってるのかって?そりゃもうこの中で一番目下なのが俺だからだぜ。もし間違ってタメ口でもきいてみろよ。殺されちまうだろ、オーケー?

誰だって死ぬまでは生きていたいものです。俺だってそうです。俺たちみんな生きている。生きているからホニャラララなのです。…でも俺、敬語あんまり得意じゃありません。


現在進行形で「斬り合い」…いや、「斬り」中のメガトロン様、そしてお歳の割にとっても素早いクライオテック様。流石です。俺にはお二人の姿が、時々影みたいに輪郭を無くして見えます。前々から思っていたのですが、あの人たちは本当に俺たちと同じ種族なのでしょうか…。この前タランスにそう言ったら、「違うッス」て言ってました。断言されました。いや、俺から振っといてなんだけど、一応みんなデストロンで…って、あ。過去に想いを馳せている間に、メガトロン様がクライオテック様を射程距離に捉えたようです。お師匠さんに、剣道で言う面を打ち込むメガトロン様は一切容赦がありません。抜き身の剣じゃ危ないですが、そこは流石のクライオテック様です。俺、真剣白刀取りなんて初めて見ました。

さて。ようやく、目をこらさずとも二人の姿が見えるようになりました。色々と聞きたいことはあるのですが、まぁとりあえず。

「…おはようございます」

「この光景を見た、第一声がそれか!!」

この間ざっと0コンマ7秒。メガトロン様のスピードツッコミは、今日も絶好調です。
















sposina















「み…見ろ、愛弟子。この完璧な白刃取りを…!実戦でこの完成度って、私ってばひょっとして神じゃないか?!」


「ハッ…!俺が心底見たいのは、二つにかち割られたアンタの脳漿だけです。早く見せてくださいよ…っ!」

「ちょっ!待ってそれは駄目!お前は私のスイートプリティーエクストラワンダフォー(以下spew)だけど、可愛く言ってもそれはだめ!」

「…殺らいでかァッ!!」

「なにゆえっ!?」

「…中の人ネタには、ツッコまないんすね…」

眠たげに目をこすり、大きな欠伸を一つ。ふぁぁ…と聞いてるだけで気の抜けてくるスコルポスのその様子に、あれっもしかしてこの子ってば、私見捨てて二度寝しちゃう気?そういう気分ってかんじーみたいなー?と、非常に我が身を案じていたクライオテックだったが、幸いなことにそちらには事が進まなかった。

「…朝から元気っすね、オラ…。ところでクライオテック様、ちょっといいですか」

「御指名ありがとうnuora!!でもそれは寧ろ、この子に待ったをかけたほうがいいと思うね!」

切羽詰まったクライオテックに、そうですか…と納得したふうに頷くスコルポス。クライオテックは違和感を覚えたが、深く考えることはできなかった。目の前にいる愛弟子が、殺気を滾らせていたからだ。

「その、癪に障る眼鏡もろとも真っ二つにしてやる…!」

「や、やだなぁもうこの子ったら物騒になって…!」

次第に狭まっていく刀身との距離。ギラリと光ったその刃は、確実にクライオテックの余裕を削いでいった。

「…メガトロン様、ちょっと…いいですか?」


しかしここで、漲る力と、目前に迫る悲願の達成に水を差された。 喉から漏れ出た唸り声は我ながら獣のようだ。

――おっ、と

駄目だ、これでは…またあいつを怯えさせてしまう。

赤く燃え滾る思考の何処かで、そんな思いが過ぎる。すると、目の前の男の呼吸を止めるまで収まらないだろうと思っていた激情が、静かに引いていく。不思議な感情の揺らぎに、誰とも知られることなく驚いていた。

「…用があるなら、さっさと済ませろ…!」

どうしたことだ、これは?

ともすれば、このまま刀を引いてしまいそうな自分を叱咤した。あくまでも、僅かながらの猶予を与えたにすぎないのだと示すため、手加減している振りをする。

必死になっている己を知覚しているのは、恐らく己のみであるはずだった。それなのに何故この俺様は、柄にもなく焦っているのだろうか。
不可思議なことだった。同時に、認めたくないことでもあった。

大きすぎる存在感、及びすぎる影響力は、そのまま己の弱点へと変容することを知っていたからだ。

このように。

このように、メガトロンの関心が向いていたのは、今現在気にかけるものと少しばかりずれていた。対象は良かった。しかし考えるべきは我が身を如何に取りつくろうかではなく、スコルポス本人のことでなければならなかった。それがたとえ、逸らし続けた事実に向き合わねばならなかったとしても。

その可能性の存在に気づかないことよりは、そのほうがどれほど良かったか知れない。


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