雑食
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「うっわ甘…」
「?どうしたんだココ」
淡い光が部屋に射し込む。
硝子越しにみる外界は初春の息吹きが芽吹き始めたばかりの木々の枝を揺らしていた。
雲の隙間からのぞく眩い太陽光が窓で屈折し、足下に影をつくっていた。
木材製の壁の特徴である木目が美しい。
此処にはなにを飾ろうか。
なにを置こうか。
そんなことを考えていたとき、隣に座っていたココが声をあげたのだった。
「何かあったのか」
「ン。いやこれなんだけど」
手にしていたのは500mlサイズの飲料パック。
スーパー等でよく目にするあれだ。
別に可笑しくはない。
いったい何に驚いたのだろうか。
スッと視線をその商品名にうつしてみる。
「……"ココナッツ"?」
話には訊いたことがあった。(前にのぞみが話していたからだ)
自分たちと同じ名前の飲み物。
それが今ココの手の中にあった。
「ナッツも飲んでみる?」
「…あぁ」
少しの興味と好奇心。
一口だけ、と思いストローに口をつけた。
「………甘過ぎないか」
「俺もびっくりした。そんなに甘いと思わなかったからさ」
とにかく甘い。
確か果実の果汁だったか。
これはこれで美味しいのかも知れないが、あまり甘味を好まないナッツにとってそれは不快にさせる飲み物であった。
「……美味くはない」
率直な意見をいった。
するとココは小さくクスッと笑って俺をみた。
「そう?確かに甘くてびっくりはしたけど。美味しいと思うよ」
「どこが」
「美味しい、に理由なんていらないだろ。それに、甘ければ甘いだけ俺は嬉しいけど」
ますます意味がわからない。
身体が心境に反応したのか、無意識の内に首を傾げていた。
──甘いだけ嬉しい……?
どういうことだろうか。
ときどきココは俺には理解不能な言い方をする。
「意味がわからない、ココ」
「だってー……」
─なんか俺たちのことみたいでさ。
「……は?//」
思わず頬を染めていた。
「甘い甘い関係ってことだよ、ナッツ」
「っ……!!///」
あまりの羞恥にココから顔を逸らし、熱を下げようと必死になった。
もう一度、その白色の液体を口に含む。
─甘い。
砂糖よりも甘美で。
蜜よりも香り高い。
嫌いだったはずのその甘味が、少しだけ愛しかった。
END.