雑食
□エルキド
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見た目はまぁ…悪くないと思う。
ワインレッドの紅髪に情熱に揺れる瞳。
筋の通った高い鼻に薄く引かれた唇。
他人より一つ分突き出た身長とその体躯に見合った長い脚。
ムカつく程に整ったその容姿は老若男女を虜にする。
性格だって女誑しな所を抜けば紳士的で優しくてー…。
『ご機嫌よう、セニョリータ』
『泣かないで。貴女に涙は似合わない…』
この気障ったらしい言葉も憎いくないに様になって。
心にも無い(いや、本当に思っているのかもしれないが)言葉と口八丁で女を酔わせる。
そんなプライド高くて負けず嫌いな恋人は、今オレを抱えて眠ってらっしゃる。安心しきって眠る恋人の寝顔に少なからず幸福と愛しさを覚えた。
エルの胸に自分の頬を押し付ける。
トクン…トクン……とこの男が生きている証が鳴り響く。
「ん…キ……ド…」
恋人の口からでたのはオレの名前。
この前助けた女の子だって(あくまで"人助け"だったが先方の女はオレ達と違ってそういう目でエルをみていた)この男の腕に抱かれて、この胸の中に埋もれてこんな甘美な声色で名前を呼ばれることは無いんだろう。
エルの背中に手を回し、きつく抱き寄せる。
すると無意識に(だと信じたい)エルも抱き締め返してくれた。
甘ったるくてクラクラする様な香りが鼻孔を擽る。
次第に眠気に襲われ、オレは再び瞼を閉じた。
こんな顔のエルはオレしか知らない。
こんな甘ったるい声をだすエルをアイツは知らない。
あの女が知らないエルをオレは知っている。
それは少しの優越感ー…。
END.