テニプリ
□不覚にも、ときめいた。
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(光→謙)
放課後の四天宝寺テニス部部室。日が暮れてきて、部活の時間も終わっていた。だが、部室には白石、謙也、財前、そして驚くことに千歳がいた。(白石が引っ張ってきたに違いない)
4人は今の今まで自主練を行っていたのだった。
真面目で完璧を目指す白石部長が1人残っているのは、珍しくもないが、千歳先輩がいるのはほぼ奇跡と言えると、皮肉めいたことを財前は思っていた。
四天宝寺テニス部のツートップ(金太郎は規格外)を捕まえ、謙也は財前とのダブルスの最終調整をしていた。白石、千歳とのテニスはワクワクするが、なによりも強い。これから戦う全国では、コイツらのような強敵がゴロゴロいるのかと思うと、謙也は心が踊った。
そして自主練も終わり、白石は当然の様に千歳を待っているし、謙也も財前と一緒に帰る。
他の部員も、自分たちも何も言わないし、疑問もない。
唯ひとつだけ言っておかないといけないのは、別に彼らは所謂恋人なんて関係ではなかった。
未だに白石は千歳に片思いだし、財前だって謙也に然り気無く近づくだけで精一杯だった。
――――――
「おーい、財前行くでー」
「分かってます。っていうか謙也さんが着替え遅かったんやろ」
「うっ…。ま、まぁそんな事より帰るでっ!ほななー白石!千歳!」
「(ちっ…逃げよった)…お疲れさんっした。部長、千歳先輩、お先します」
「おん。また明日な」
「気をつけてかえりなっせ」
ニコリと笑顔で手を振られる。あんなにテニスの練習をした後だというのに、2人ともまだまだ余裕の顔だ。
正直悔しい、だがこの人たちが自分たち四天宝寺の先輩だと思うと悔しさよりも頼もしさを感じる。いつかは、部長も千歳先輩も、越えてみせる。そう、財前は口には出さないが常々思っていた。
「…でなー、って財前?聞いとるかお前」
「すんません。全然」
「おまっ。こんな時だけ正直過ぎや!」
「俺はいつでも正直ですわ」
「嘘やん!」
隣でやいやい騒ぐ謙也さんを、いつものように軽くあしらう。
本当は、平常よりも近い距離に緊張していて話を聞いていなかったなんて言えたらどんなに楽だろうか。
(いや、言える訳なんてないんやけど)
好きな人との帰り道。本当なら嬉しい筈なのにこの不毛な気持ちの前じゃ、ため息も付きたくなる。
そう、思っていた。
「あー、んでな財前。あんな…」
「なんすか?」
「いや、えーと…な?」
「やから、何ですか。あんたスピードスターなんやろ。ちゃっちゃか言えや」
「おまっ…俺、一応先輩や」
「やったらはよ言うて下さいセンパイ?」
「うっ…」
珍しく顔を赤くして、此方をチラチラ覗き見ている。不本意ながら俺の方が身長が低いので、うつむいた所で謙也さんの顔は丸見えだ。
言いにくそうに赤らめる謙也さんは、はっきり言って可愛い。年上なのに、可愛いとか卑怯過ぎる。
なんて勝手な言い分を悶々と思っていたら、やっと決心したのか謙也さんが口を開いた。
「あんな!これから全国やん?やからやっぱり俺としてはチームワークとか大事やと思うんよ!あ、いや小春とユウジみたいなんとはちゃうくてな、そうやなくてっ、だ、だから!」
「?」
「ざっ…財前んこと『ひかる』って呼んでええかな…とか……思ったんです…けど」
「………は?」
見たことないくらい真っ赤な顔で。
俺よりも身長高い筈なのに、上目遣いで。
おまけに不安そうに首を傾げて『アカン…?』なんて言ってきた。
(くっそ…!ホンマに卑怯や……っ)
不意に呼ばれた自分の名前に
不覚にも、ときめいた。
END,