テニプリ

□仲良き事は美しきかな
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(ふぁあ……眠いわ)

無意識に出そうになる欠伸を無理矢理押し込める。それでもやはり眠気は消えてはくれない。
満腹になったお腹を擦りながら、謙也は教師に見つからないようにまた欠伸を噛み殺した。

腹一杯ご飯を食べ、また日当たりの良いこの席では五限の授業はもはや眠気との戦いになるしかない。しょうがないんだ、見逃してくれと心の中で目の前にいる数学教師に謝罪を告げ、開けているのもやっとの瞼をとうとう閉じようとした時、ふと隣の男を盗み見た。

周りの人間のほとんどが夢の世界の住人になっているが、彼はいつものように背筋を伸ばし、ノートに教師の言葉を書き込んでいた。横目でも分かるそのお綺麗な顔の親友は、俺とは違い真剣に授業に取り組んでいた。

真面目でストイックで冷静で。彼の良いところを上げろと言われたらきっと数えきれないほどの美的をあげることができるだろう。そして彼の親友というポジションが、謙也の自慢だった。
その、我らが自慢の聖書をただの中学生男子(いや、むしろただの乙女)にしてしまう、唯一の男を思い浮かべた。そいつは馬鹿みたいにでかくて、どうしようもない放浪癖持ちで、だがこの聖書と肩を並べても何ら問題ないくらいの男前である。

千歳千里

白石を唯一掻き乱すことのできる男だ。
コイツの前では白石もただの恋する中学生。もし千歳に微笑まれようもなら、きっと顔を真っ赤にして照れる姿が拝めるだろう。
最初は親友がとられたような気がしないこともなかったが、そんな感情以上に白石が笑っていることが嬉しかった。
未だ白石の片思いのようで付き合ってはいないようだが、そろそろ時間の問題だろう。それに、我らが愛する部長の初恋だ。実らせてやろうじゃないか。


長々と見つめていたせいか、白石が此方を怪訝そうに見つめ返してきた。口がパクパクうごいている。

(…?あ、「ちゃんと前みろ」…?)

無言で睨まれたら言うことを聞くしかない。なにせうちの部長の地位は計り知れなく高いのだ。言うなれば第二のオカンである。逆らおうものならあの小綺麗な顔が絶対零度の笑みを作り出す。左手にある毒手はゴンタクレを抑える最終手段だが、普通の部員には笑顔の脅しだけで充分な威力だった。


(へいへい…わかっとるー)

口パクで返事を返したが、さて、そろそろ眠気がピークになってきた。あと数秒もすれば夢の世界へいけるだろう。


授業を放棄しうつ伏せに近い格好になった。それをみた白石にまた目線だけで咎められるが、いかんせん、もう昼寝の態勢に入ってしまった俺には届かない。
白石は無言で起きろと催促するが、もはや授業を受ける気にはなれない。お休み、と声にならない口パクで伝え、さぁ寝るかと思ったのだが。


「おーい謙也ー。そんなに眠いんやったら前出て問題解きや」

「……えー、まじっすか」


いつもはそんなに当たらないのに今日に限って教師に指されてしまった。それでも謙也は数学は得意な教科なので、さっさと黒板に書いて済まそうとした。

白いチョークを握り、早いスピードで書き出す。問題は以前やったものの応用であるようだが、自分にとって特に難しいわけでは無かったため、止まる事なく書き進めた。
あと半分というところで、此方を見ていた教師が口を開いた。


「謙也ー、お前白石が好きなんは分かるけどな、せめて授業中くらいは俺の方みたってやー?」


ボキッ、と握っていたチョークが折れた。まだ出したばかりの新しいチョークだったのに。

その瞬間クラスの人間が関を切ったように笑いだした。名前を出された白石ですら、謙也をみて笑っている。だが、謙也一人が笑えていなかった。
そして、そんな謙也に追い討ちをかける男がいた。


「そんなんちゃいますよー先生。こいつちゃーんと好きなヤツ居りますから」


ニヤニヤとした笑みを浮かべ頬杖をついた聖書が爆弾を落として下さった。周りのクラスメイトたちはやれ誰だ、どんな子だと、もはや授業にならない。教師ですら興味深々の顔で此方をみていた。





あぁもう本当、嫌になる。



とりあえず白石、お前のその小綺麗な顔を一発殴らせてくれ。





END,
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